伊吹さん用の珈琲が淹れ終わると、わたしはアトリエ内に飾ってある伊吹さんの作品を見ていた。
伊吹さんのLINEのアイコンになっている紫色の花。
皺がたくさん入った老夫婦の重なる手。
それから、向日葵畑に囲まれて微笑む伊吹さんのお母さんの絵。
伊吹さんの絵はどれも温かさを感じて、いつまで見ていても飽きなかった。
すると、外から誰かの話し声が聞こえてきた。
伊吹さん帰ってきたかな?
そう思いながら、入口に近付くとアトリエのドアが開いた。
開いたドアの外には、伊吹さんと峯岸さんが居て、わたしは峯岸さんと目が合った。
わたしを見た峯岸さんは、「何でこの人が伊吹先生のアトリエに居るんですか?!」と不満気な口調で言った。
「誰をアトリエに招こうと、俺の自由じゃないですか。」
伊吹さんは落ち着いた口調でそう言った。
「でも、わたしは立ち入り禁止なのに!」
「それは、前に峯岸さんが勝手に俺の作品を持ち出したからです。」
「でも、、、この人をアトリエに入れることにわたしは反対です!」
「峯岸さんには、仕事の管理はお任せしていますけど、プライベートのことまで口出しされる権利はありません。」
伊吹さんがそう言うと、峯岸さんはそれ以上何も言えず悔しそうな表情を浮かべると、最後にわたしを睨み付けてから、車に乗り込み去って行った。
伊吹さんは1つ溜め息をつくと、「すいませんね、お見苦しいところをお見せしてしまって。」と言い、アトリエ内に入るとドアを閉めた。
すると、「あ、珈琲の香り。」と気付く伊吹さん。
わたしが「珈琲淹れておきましたよ。そろそろ丁度いい感じに冷めてる頃だと思います。」と言うと、「さすが、しずくさん!気が利くなぁ〜。」と伊吹さんは嬉しそうに微笑んだ。



