そっと、ぎゅっと抱きしめて


伊吹さんのアトリエの前まで来ると、握りしめていた右手を開き、アトリエの鍵を見つめた。

アトリエで待っててって言ってたから、入っていいんだよね?

そう思いながら、わたしは伊吹さんからもらった鍵をアトリエのドアの鍵穴に差し込み、回した。

ガチャッという音と共に鍵が開く。

「開いた、、、。」

当たり前のことに少しドキッとする。

アトリエのドアを開けると、中は真っ暗で、手探りで電気のスイッチを探す。
電気のスイッチは、ドアのすぐ右側にあり、スイッチを押すと一気にアトリエ内が明るくなった。

わたしはアトリエ内に入ると、何だか不思議な気持ちになった。

伊吹さんのアトリエに入っちゃった、、、。

アトリエ内を見回し、改めて素敵なアトリエだなぁ、と温かな気持ちになる。

伊吹さん、お弁当を持って来てくれるって言ってたなぁ。
珈琲でも淹れて待ってようかな。

伊吹さんは猫舌だから、今から淹れておけば、帰って来た頃には少しは冷めてるよね。

そう思いながら、わたしはこないだ伊吹さんが使っていたマグカップを出し、ケトルでお湯を沸かした。

シンク横の棚には、ドリップ珈琲の袋が麻紐で作られた四角い籠の中に並べて入れられていて、わたしはその1つを取って開けた。

カチッと鳴り、お湯が沸いたことを知らせるケトルのお湯をマグカップにかけたドリップ珈琲の上からゆっくりと淹れる。

珈琲の良い香りがアトリエ内に広がっていくのを感じながら、珈琲を淹れて伊吹さんの帰りを待つことに幸せを感じていた。