こちらを見ることもなく、旦那様はメモ書きを私へ向けて差し出す。 1枚の紙を旦那様より受け取る。 その紙には人の名前のみが記されていた。 「畏まりました、旦那様」 頭を下げて紙を胸元の手帳に挟んでしまう。 この人物が誰で、旦那様にとってのどのようなポジションなのか等はどうでも良い。 旦那様が仰ることは絶対。 憐れな黒蝶が旦那様の感心に、ほんの僅かにでも触れてしまっただけのこと。 逃げられはしない。 囚われた黒蝶。