それを成し遂げられるからこそ、このお方は今の地位に君臨し続けられているのだ。
死者に気を取られていては何も成せない。
成し遂げたくば、過去のしがらみなど振り捨てて、縁を切り、茨に足を傷つけられながら、それでも高く飛べる路を探るべきなのだ。
例えばそれが幾万の犠牲の上に成り立つ自由、栄光だとしても。
美しく残酷な我が主。
空になったティーカップに温かい紅茶を注ぐ。
主は眺めていたタブレット端末から視線を上げて、ゆったりと口角だけを上げて、淹れたばかりの紅茶を一口飲み下す。
瞳の奥は腹を空かした肉食獣のようにギラギラと鋭い光を宿し、それなのに氷のように熱が伝わって来ない。
感情の読む事の出来ぬ眼。
……この顔は機嫌がよろしい時にお見せになる表情ですね。
この表情を別の者が見れば竦み上がり、尻尾を巻いて逃げ出すことでしょう。
恐ろしい程秀麗な笑み。
酷薄で惚れ惚れ致します。
……どうやら、有益な情報でもあったようですね。
現役を退き老後を愉しむと公言している我が主だけれど、息子に座を譲った今でも実権はこのお方が握っているようなもの。
表舞台には姿を出すことが極端に現役時代に比べると減りはしたものの、名は衰えること無く未だに恐れられている。
隠居とは名ばかりの隠退。
ご子息はそれを知りながらも、父である主に否やを申し立てる事が出来ず、与えられた地位に君臨する哀れな傀儡と化していた。
「…オリヴァー、この人物を徹底的に調べ上げろ」
