スノードロップ


           驟雨(しゅうう)


どんよりとした薄暗い空模様。
突然降り出した雨粒が勢いよく大地を濡らす。


一人掛けのソファに座り足を組む美しい男は、窓の外を見ることもなく、優雅に液晶端末を見つめている。

年相応に年輪は刻まれてはいるものの、天性の美しさと恐ろしさはは衰えること無く、年々鋭さが磨かれていくばかり。



人はこの方のことを“氷城の死神”と陰で呼ぶ。



本人の前で言ったのならば………。

おそらくは物理的に首が飛ぶ事だろう。

人間離れした容姿は美しく天界より舞い降りた神の使いのようで。
けれど時として、この方は地獄の底から這い出て来た死神のように恐ろしい。

捕まれば骨の髄まで利用されて。

使えなくなれば捨てられる。

そこに感情など無い。

このお方に逆らえる人など存在しない。


血の繋がりさえ、利用価値のある(こま)に過ぎない。

長年仕えてきた私も然り。

このお方は、周りに存在する人間の事を利用出来る駒としか思っていない。


薄情で冷血な絶対的なこの城の主。


その口が命じることはほぼ全て現実となす。

いとも簡単に人が消える世界。

このお方はまるでボロボロになった玩具(おもちゃ)を捨てるように、切り捨てて行くのだろう。

今までも。

これからも。


消えて行く者の人生など考慮せず、頭の片隅にさえ死者を悼む気持ちは湧いて来ず。

泣き荒ぶその者の家族を見下ろして、ほくそ笑む事だろう。


私に逆らうのが悪い、と。
こうなりたく無ければ、私に従え、と。


証拠の出ない完璧な殺人。