ーー第一、私みたいなクソ女にかける時間が無いと言ったのは君じゃないか。


「…お前一体、今まで何して」
「皇様」


にこりと、それ以上は踏み込んでくれるなと圧力をかけて名前を呼んだ。


「此処はお酒と話を楽しむ場所です。そんなつまらない話は辞めましょう」


京弥の人生に星來が関係ないように、星來の人生にだってもう京弥は関係ない。

だからこれ以上、自分のテリトリーを荒らさないで欲しい。


その時、スッと音もなくボーイが間に入り星來を呼びにきた。


「失礼します。聖羅さん、少しよろしいでしょうか」
「はい。皇様申し訳ありません。他の者を来させせますのでどうぞ楽しんでいって下さいね」
「…いや、今日は帰る」
「え?…あ、そうですか」


まだ来店してほとんど時間も経っていないのにどういう心境の変化なのだろう。
だが帰ると言われてしまえば見送らざるを得ない。

早急にチェックを終わらせてボーイを引かせ、星來は一人京弥の見送りに立つ。


「じゃあね、京弥くん」


手を振れば、そのまま何も言わずに京弥は背中を向けて歩いて行った。


「聖羅さん、急いでください」
「あ、はい」


本来ならば姿が見えなくなるまで見送らなければならないが、まあ振り向く様子も無いしいいかと不完全なまま星來は店の中へ戻る。

彼が名残惜しげに振り返りでもしたらそれこそ天変地異だ。




…しかし、星來のその認識は甘かった。

店の奥へと去っていく背中を振り返った京弥が穴が開くほど強く睨みつけていたことを、星來は知らない。