「今それを持ち出すのかよ」
「だって、」
「だってもへったくれもねえ。この俺が!皇の地位も己のプライドも全部捨ててお前が欲しいって言ってんだよ!信じろや!」
「ーーっ、」
ギュン!と、胸が痛いほどに締め付けられる。
「でも、こ、婚約者が居るって」
「それはお前だろ。何を勘違いしてたか知らねえが、俺ら婚約破棄してねえからな」
「え!?」
ここにきてまさかの爆弾発言である。
確かにあの時はそれどころじゃなくて顔を合わせて直接書面を交わした訳ではないが、それが本当なら京弥は何の意味も価値もない婚約関係を続けてきたとでも言うのだろうか。
「お前の親父が送ってきた書類に俺はサインしてねえ。…まあ正直、当時は次の候補出されるのが面倒だっただけだけどな」
「じゃあどうして今になって…」
「それこそ昔と何もかもが違うだろ」
そう言うと、京弥はスッと星來の手を取った。
ビクンと震えて思わず手を引こうとしたが、それを許さないとばかりに京弥は指を絡めてきた。
「今のお前は気品も知性も、礼儀作法、対話スキルどれを取っても一流だ。おまけに俺に楯突く度胸もある。大手企業の社長夫人として何も申し分ねえ。それに没落したとはいえ生まれも名家の綾川家だし血筋だって問題無いだろ」
「……」
「…いや、こんなのは建前だな」
そう言うと絡めた手を引き、星來の左手の甲にキスをした。
「…一目惚れだったんだよ」



