すべてを捨てて、君を迎えに行く



「そんな事言ったって、君の目標はどうするの。…ずっと、お兄さん達を追い抜いて上に立つんだって頑張ってたのに」
「んなもん、今だってそう思ってるわ」
「っ、だったら、こんな馬鹿げたこと辞めようよ!」


兄達に軽くあしらわれる度に、いつかあいつらを使う側に立ってやるんだと言うのが京弥の口癖だった。


成長して距離を取られるまではそんな京弥の隣に立ち「京弥くんは凄いね!かっこいいなあ」と目を輝かせていたのだから、彼の野心は誰よりも知っている。

二十年近く経った今、京弥の努力でようやくその目標だって夢物語じゃなくなった。


それをたかがホステス一人の為に無に帰するなんて、そんな馬鹿馬鹿しい話があって良いわけない。




「なんも馬鹿げた事じゃねえわ。それに俺は何も諦めてない。ただ少し、戦い方を変えるだけだ」
「…どういう意味?」


星來が聞き返せば、それまで吊り上がっていた目元がストンと落ち表情が一気に抜けて文字通りスン…とした顔になる。


「あのバカ兄貴達にとっちゃ、俺はいつまでも生意気なガキなんだよ。俺がどれだけ業績あげようが歯向かおうが、対抗心のたの字も出してきやしねえ」




いつだったか、昔京弥が同じような事を言っていた気がする。

上二人の兄は年も近くいつも張り合って切磋琢磨しているのに、自分はいつも蚊帳の外だと。
それが死ぬほどムカついて、いつか引き摺り下ろしてやるんだなんて物騒な事を言っていた。

一人っ子で、頭の中がお花畑だった昔の星來には難しい話でよくわからなったが、今ならよく分かる。



「なら弟じゃなくなって盾つきゃ、あのブラコン野郎共も少しは目が覚めんだろ。その為に新しく手掛けた新規事業も含め俺の会社だった皇のグループ会社は全部俺個人のものにした。業績も鰻登り一直線だわ」