すべてを捨てて、君を迎えに行く



「でも結婚だよ?ただのホステスとなんて許される筈がないし、皇の籍を抜けるなんてもっと…綾川の名前にはもう何の価値も無いんだよ?一度冷静になってよ」


説き伏せるように言うが、聞く耳持たんとばかりに言い返される。


「俺はずっと冷静だ。この為に一年かけて死に物狂いで準備してきたんだからな」
「…え…?」


耳かっぽじってよく聞け、と京弥は星來にヤのつく職業を思わせる面構えで凄みながら詰め寄った。



「皇を抜ける事は親からの許可を完膚なきまでにもぎ取った。お前の両親も探し出して頷かせて、既に誰も反対する奴なんか居ねえよ。一年もかかっちまったがな。…ったく、くだらない嘘までついて距離取ろうとしやがって」
「う、嘘じゃな…」
「どうせあの報道見て、うだうだ余計な事考えやがったんだろ」
「……」
「言ったろ。俺はやりたいようにやるだけだって」



それにしたって規模が違うんだよ、規模が。

文句の一つでも言ってやりたいのに続く言葉が出てこない。

即断即決を地で行き、無駄な事も嫌な事も誰が何と言おうと絶対にやらない京弥が一年もかけて星來といる為に動いてくれた事が嬉しくてたまらなかった。

自分だって出来ることなら今すぐにでもその均整の取れた力強い身体の中へ飛び込んでいきたい。


けれど恋人になるのと結婚するのでは意味合いが大きく違う。
星來の立場では京弥の目標の妨げになってしまう。



ずっと憧れてた。応援してた。
彼の足枷になると分かっているのに、そんな事出来るはずもなかった。