「あ、う…」
もはや完全にパニック状態に陥りまともに声も出せず固まっていると、ため息をついた京弥に「ちょっと来い」と腕を引かれて個室から引っ張り出された。
そうして廊下を抜けて手入れされた庭木の広がる中庭まで出たところで、星來は掴まれていた腕を勢いよく振り解いた。
「どういう事!なんでこんな大事な事勝手に決めるの!?」
京弥と二人きりになり漸く冷静さを取り戻した星來は、京弥に向かって怒鳴りつけた。
「籍を抜くって何?結婚て何!?ちゃんと説明して!」
美しい庭園の中、星來の怒鳴り声が響く。
京弥は憤り捲し立てる星來を真っ直ぐに見つめ返し、払われた手を懐に入れながらいけしゃあしゃあと言い返す。
「昔親が勝手に決めた婚約と何が違うんだよ」
「何もかも違うよ!馬鹿なの!?」
「あァ!?誰が馬鹿だ!」
「馬鹿にバカって言って何が悪いの!」
「はあ!?テメ、これ以上ない最高の案だろうが!お前は借金から解放される!俺は惚れてる女を手に入れる!どっからどう見てもWin-Winだろうが!」
「感謝して崇め奉れや!」と吐き捨てる京弥の言葉を右から左へ聞き流しながら、先程どさくさに紛れて放たれた言葉を反芻する。
ーーホレテル…惚れてる!?
信じられない事に自分はこの目の前の暴君から好意を持たれているらしい。
色気もへったくれもない、情緒の欠片すらない告白だが確かに京弥の行動は一貫性があって、これまでの行動全てが星來に対する想いを体現していた。
それにしたって酷い告白だ。
けれどこんなどこまでも偉そうな雑な告白でさえ嬉しいと感じてしまう程、京弥に惹かれているんだと突きつけられた気がした。
だけど、駄目だ。
熱に浮かされていた意識をなんとか取り戻し、頭を左右に振って星來は再び京弥を睨み上げ詰め寄る。



