零れ落ちそうなほど目を剥く星來を置き去りに、京弥は今後は綾川の姓を名乗り星來の夫として今の会社を率いていくと強い口調で言った。
目の前に置かれていたのはその旨を記載した誓約書と、もう一つは桃色の紙の婚姻届で、既にそれらには既に星來以外の両家全員のサインがきっちりと記入されていた。
「ち、ちょっと待ってください!私そんな話は聞いていません!」
勝手に決められても困る!とテーブルを叩きながら京弥に向かって抗議するが、京弥は表情ひとつ変えることなく当然のように言い放つ。
「お前がどう言おうが準備は全て整い済みだ。綾川家の負債も俺が引き受けた。文句苦情は一切受け付けねえ」
となかなかの強引さで星來言い伏せ、更にはペンを突き出してサインしろと言ってくる始末。
助けを求めるように他の面々に目を向ければ、皇夫妻は末の息子の蛮行に頭を痛そうに抱えていたし、上の兄はやれやれと言わんばかりに呆れた目を向け下の兄に至ってはこちらを見て愉しげに笑っている。
星來の父は狼に囲まれた兎が如く始終プルプル震えながら「あまりに圧が凄まじいから断りきれなかったんだ、ごめんよお…」とその目が訴えてきていた。
最早その場に京弥の強攻を止めるられる者は一人もおらず、星來は正に四面楚歌の状態だった。
これまで様々な修羅場を切り抜けてきた星來でも、ここまでの大事はさすがに未経験だった。



