大手食品会社を経営する早見は星來の太客の一人で、その優しく朗らかで、父のような雰囲気を持つ彼にはつい借金の話をしてしまっていた。
そんな彼が、急にどうして。
「最近…いやここ一年、元気が無かっただろう?また辛い目に遭ったんじゃないかってずっと心配だったんだ」
「…っ、」
バレていた。
完璧に隠していたつもりだったのに。
真っ青になる星來に、早見は「心配いらないよ」と優しく言った。
「完璧に隠せてたよ。君に落ち度は無い。ただ…そうだな、君の事情を知ってたから気づけたのかな」
早見の言葉に嘘は無さそうで少し安心した。
それは抜きにしても、これは星來にとってこれ以上無い程ありがたい話だった。
借金が一日でも早くなくなって解放されるのなら、そうしたい。
それに、叶うなら星來だって幸せな結婚をしたいとずっと夢見ていた。
その点においても早見という男はこれ以上無いほどに条件の良い男だった。
ーーだけど、私は。
「…一度、考えさせて欲しい、です」
途切れ途切れに言う星來に、早見は優しい笑顔で応えてくれた。
こんな素晴らしい話、受けた方が良いに決まっている。
それでも、星來の頭の中を占めるのは咄嗟に浮かんだ一人だけだった。



