すべてを捨てて、君を迎えに行く




その翌週、こちらも星來の客であるヒット映画も手がけたことのある有名監督が来店した。


「聖羅ちゃーん!会いたかったよ!」
「こんばんは、熊野監督」


豪快で名前の通り熊のよう風貌なのに言動が愛らしい熊野の事は、客の中では好きな部類だった。

早速VIPルームへ通し、数人のヘルプと共に席に着く。


「今日はね、面白い話持ってきたよ〜!」


熊野の言葉に何人かが身を乗り出す。

熊野が面白いというのは、大抵芸能人のゴシップだ。
その手の話はホステス嬢からもウケがいいし、この店の者が全員口が固いのもあっていつも彼の持ちネタは芸能人の裏情報だった。


熊野曰く、三ヶ月ほど前に長い付き合いの会社からのCM撮影の監督を請け負ったのだが、それに起用されたのがある人気女優だった。


「聞いて驚くことに、それがあの先週ウソの熱愛報道で話題になったあの女優!」


いつもならここで女の子達の黄色声が上がるのだが、今日のそれは少しぎこちなかった。

けれど既に良い感じに出来上がっていた熊野はそれに気付かずに続ける。


その撮影の場には、打ち合わせに来ていた京弥も居た。
その際に女優は京弥に一目惚れし、それはもうすごいアプローチだったそうだ。


けれど京弥は婚約者がいるからと冷たく一蹴したらしい。