「もう、顔も見たくないの」
財閥の御曹司と、唯のホステス。
彼が望めば簡単に会うことが出来るが、そこには大きな距離が存在する。
彼が断ち切って仕舞えば一瞬にして終わってしまうような儚いもの。
一度ならず二度までも彼に拒絶されてしまえば、もう今度こそ立ち直れない気がした。
それならば、彼が言う前に離れればいい。
自分はまだ、折れるわけにはいかないのだから。
「お願いだから…もう、来ないで」
最後の言葉は震えていた。
そんな星來を見てか、京弥は静かに手を離して「分かった」のひと言だけを残して席を離れた。
一人残された部屋で、星來は溢れそうになる涙をグッと堪えた。此処は職場だ。
自分にはまだ目を塞ぎたくなるくらいの借金が残っている。
泣いて立ち竦んでいる訳にはいかない。
折れんばかりに歯を食いしばり、星來は部屋を出た。



