すべてを捨てて、君を迎えに行く







ーーーよし。


気合いを入れて戻ると、VIPルームで一人自分を待つ男と目が合った。



「こんばんは、皇社長」



気付かれないように、気付きませんように。

心の中でそう願いながら、星來は彼のキモいと言った笑顔を努めて貼り付けながら言った。


「それヤメロって言ったよな」
「それは出来ませんって何度も言いましたよ?」


自然を装って隣りに座り、京弥の好みの濃さでお酒を作ろうとしたその手は、彼によって遮られた。


「…何があった」







ーーどうして今、気付くの。


昔、あれほど辛い心に気付いて欲しかった時は取りあうこともしなかったくせに。




「…この店お触り禁止ですよ、社長」
「茶化すな」


京弥の漆黒の綺麗な瞳が星來を射抜く。

それに耐えられなくなり、星來は顔を思い切り逸らした。