すべてを捨てて、君を迎えに行く





お手洗いと嘘をつき抜けてきた個室の中で、星來は一筋の涙を流していた。


自分の気持ちになんて気付かなければ良かった。

仕事中だというのに初めての抑えられない激情にどうして良いか分からずにいると、外からこちらを伺うような声がかかってきた。



「聖羅さん、大丈夫ですかぁ?」


少しアルコールが入った同僚の甘い声は、次の台詞で星來を地獄へ突き落とした。



「あのぉ…皇社長が、いらしてるんですけどぉ…」


少し気まずそうな声だった。
彼女も動揺している。


それもそのはず、京弥を一途な男と最初に言い放ったのは彼女だったから。



「大丈夫、すぐに戻るね」


できる限り平静を装いそう返した。

パタパタと去っていく足音を聞きながら自分の頬を両手で叩く。