挨拶もそこそこに乾杯をせがまれそれに応じ、グラスを置いて京弥は告げた。


「ここなら店じゃねえからなんでも話せんだろ」


やられた、と思った。
この男のこう言う頭が回るところが本当に嫌だ。

しかしこと此処に至っては仕方がない。

星來は食前酒をぐいと煽り「それで何が聞きたいの」と素っ気なく言った。



「そうは言っても正直話すことなんて何も無いよ。学校辞めて、適当な公立高校出て夜の街に就職。はい終わり」
「お前…随分と太々しくなったじゃねえか」


ビキビキと青筋を立てる京弥に星來は冷めた視線を送る。


「当たり前だよ。どれほどの修羅場乗り越えてきたと思ってるの?」


もはやお客様への礼儀など何処へやら。
会話もそこそこに星來は目の前に出された前菜に手をつけた。


「どれほどのってお前…」
「警察のお世話になる事も何度もあったし、住所不定な時期も結構あった。これだけ言えば分かるよね?」
「……」


美味しい。
さすが食通な京弥が選ぶだけあってどれも全部美味だ。この際遠慮せずに頼んでしまおう。


「あんだけすぐにピーピー泣いてたクセに…」
「ふふ、そうだったね」


お得意の営業スマイルを見せれば、京弥の顔は不快そうに歪む。