2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 騎士団の護衛は、無料でしてもらえる。巡礼者を聖地まで送った騎士たちへの報酬は、教皇聖下が支払うのだ。ありがたい。

 護衛の騎士団長は、ファルク・コルネール・リヒテンベルク様。
 短く刈り上げた黒い髪に、鋭い眼光。年齢は32歳。
 近寄りがたい雰囲気がある屈強な男性だ。
 それもそのはず。ファルク様は戦争の英雄だった。

「団長のファルクです。あなたを聖地へお届けします。夜盗がでますから、私から離れないでください」

 すっと、言葉が耳に届く、いい声の方だ。ファルク様がまなじりを優しく下げ、私を見てほほ笑む。ちょっとドキっとした。

 年上の男性に笑顔を向けられて、ころっといくなんて。自分でも弱っているなと思いなおし、軽く頭をふるう。

 巡礼者は私だけだった。護衛騎士もファルク様しかいない。

「ピア・ゲッツです……宜しくお願いします。ファルク様、自ら来てくださったのですね……」
「おや、私のことをご存知で?」
「ええ、片足をなくされてもなお、敵を打ち払った英雄だと」
「はははっ、光栄だ」

 快活に笑ったファルク様に、私は目を丸くした。

「巡礼者が女性一名、ということで、私、自ら赴きました。美人に弱い騎士は多いですからね。疲れたら馬に乗ってください。聖地まで一緒に行きましょう」

 そういって、ファルク様はたづなを引いた。自分の馬に私の荷物をくくりつける。
 聖地への旅は、半年がかりだ。
 その間、私はファルク様とたくさん話をした。ファルク様は、意外に甘党で、お菓子が好きだった。

「この顔で甘いもの好きなんですかー!と、よく部下にからかわれるんですよ」
「まあ、ふふっ。私、お菓子なら、弟たちに作っていました。かぼちゃのタルトとか」
「カボチャのタルト、うまそうですね」
「カボチャを皮ごとオーブンに入れて焼くんですよ。砂糖は高いですから、少量で済むように、頭をひねりました」
「……あなたは賢い方だ。それにしても、タルトはうまそうだ……」

 目を輝かせるファルク様を見て、作ってあげたい気持ちがむくむく沸き上がった。

「次の休憩所で、台所を借りましょうか? それで、その……よろしければ、私の作ったタルトを召し上がってください」

 大胆なことを言ってしまっただろうか。ロジェリオにはズバズバ言っていたのに、ファルク様相手だと、どうも自分の言葉に自信が持てない。

「魅惑的な提案だ。楽しみにしています」

 にっと笑ったファルク様に、ほっと胸をなでおろす。
 その日、お世話になった教会で、私はカボチャのタルトを作った。ファルク様は気に入ってくださって、本当に美味しそうに食べていた。よかった。