2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 でも、実家に帰っても、ロジェリオとの縁談に食いついた弟が当主だ。長くいるつもりはない。私は弟にはっきりと言った。

「離婚して家を出てきたから」
「ええええっ! お金はどうするんだよっ!」
「一年間で、援助金は多くもらえたでしょ?」

 私はノンブレスでロジェリオとの結婚生活を語った。聞き終えた弟はしょんぼりと肩を落とした。

「……ごめんなさい。お金は?とか言いません……」
「よろしい。もう私をあてにしないで……疲れたわ……」
「ねえちゃん……ごめん」

 根は素直な弟だ。これ以上、しかる気にもなれない。次男は騎士だし、三男も騎士だし、四男も騎士だし、五男は騎士見習いだ。みんなそれぞれの道を歩んでいる。私も自分の道を歩きたい。

「修道院に入るつもりだから、めったに会えないけど、元気でね」

 弟の妻と、弟の3人の子どもたち、甥っ子たちに挨拶して、私は恩師であるシスターの元に行った。

「あら、ピア?」

 シスターの顔を見たら気がゆるんで、ちょっと泣きそうになった。シスターは私の事情を聞いてくれ、冷笑した。

「わたくしの可愛い教え子が、そんな目に。……全員、滅ぼしたくなるわね」
「神に仕える人が、滅ぼすとか言っていいのですか?」
「いち個人の感想よ。ふふっ」

 シスターは優しい目をして、私の頭をぽんぽんと撫でた。

 もう、小さな子どもではないのに。
 皺の入った優しい手になでられ、ひどく安心した。私はスンと鼻を鳴らす。

「今まで、よく頑張ったわね」

 それからシスターは、ロジェリオが本当に離婚届けを出したか怪しいから、と付け加えた。

「今の制度では、夫が離縁状を届けなければ、離婚が成立しないわ。苦労している女性をたくさん見てきた。ピア、聖地に行って、ゆるしの秘跡を受けなさい。ゆるしを得れば生まれ変わったことになって、結婚は無効になるわ」

 聖地への巡礼は、騎士団が護衛してくれるらしい。

「聖地に行きたいです……それで私の結婚が無効にできるなら、なんでもしたいっ」
「そう。ではまず、体力をつけなくてはね。巡礼の旅は過酷よ。充分に休養して、騎士団がくる場所に行きましょう」

 こうして私は、シスターが運営する修道院にお世話になることになった。
 シスターがいる修道院は、ハーブの楽園だった。何種類ものハーブを育て、療法として活用している。

 修道院は小さな都市みたいで、ため池で魚を飼育し、鶏や羊をそだて、自主自足のサイクルができあがっていた。

 私は半年間、シスターからハーブの知識を学び直した。巡礼の服に着替え、乾燥したハーブを持って、騎士団に護衛を頼んだ。