2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 屋敷の扉をバアンと開いて、私は駆け出す。
 剣を二本帯刀したファルク様が声を出した。

「ピア、待ってくれ! 俺のそばにいてくれ!」

 ファルク様に呼び捨てにされ、ピタッと足が止まってしまう。
 うっ。演技とはいえ、呼び捨てはドキッとする。
 いやいや。ときめいている場合ではないわ!
 私はふりかえって、ファルク様を見つめていった。

「わ、わたしは、帰らないといけない、場所があるっ あるんですの!」

 はい。すっごく、噛みました。
 私、演技力ないかも。

「ピア……俺のそばにいたいと言ったじゃないか……どうして急に……」

 ファルク様が切そうな眼差しで、私に歩み寄る。
 演技が本気に見えて、くらくらする。
 ファルク様が私の腕を掴み、顔がほてった。

「ピアから離れろ!」

 草むらからフードを被った人が出てきた。その人は、フードを頭からはぎとる。
 見えた顔にぎょっとした。

 顔立ちはロジェリオっぽい。でも、無精ひげを生やし、髪はぼさぼさ。頬はこけて、目はぎょろっとしている。

「え? ――誰?」

 私は眉をひそめ、ロジェリオ(仮)を見た。

「ぼくだよ、ピア。きみの夫、ロジェリオだ」

 ロジェリオ(本物)は、私に近づいてくる。

「なぜ、私の居場所を……」
「きみの弟にきみの場所を聞いてね。迎えにきたんだよ。さあ、一緒に帰ろう? そこのきみ! ピアを離せ!」

 ロジェリオがファルク様を指さす。
 ファルク様が私の腕を引き寄せ、背中にかばった。

「……ピア嬢、もう演技をしなくていいか?」
「え、ええ……ロジェリオ、出てきましたね」
「ピア、どうしたんだい? こいつに脅されているの?」
「違います」

 はっきり言ったのに、ロジェリオは目を泳がせた後、薄く笑った。

「ピア……そうか。まだ怒っているのかい? 大丈夫だよ。マレーネは妊娠していなかった。妻の座は、まだきみのものなんだ。ああ、彼女は追いだしたから、安心してよ。母上は、ボケてしまったし、家が大変なんだ。母上は、ピアの淹れたお茶が飲みたいと騒いでいてね。きみが戻ってくれたら、なにもかもうまくいく」
「私には関係ないことだわ」
「エッ……!」

 元夫が、本当にアホで嫌になる。

「私は聖地に赴き、ゆるしを得ました。離婚は成立しています。証明書だって、贖罪司祭さまからもらったんです!」

 私は離婚証明書をロジェリオに見せた。

「元義母は私には関係ないことです。あなたが面倒を見ればいいでしょう」
「母上を見捨るのか!……ああ、わかったよ。ぼくの気を惹きたくて、わざとつれない振りをするんだね。きみは、そういう人……だったね。きみと体を重ねたときだって……」
「――もう黙れ」