2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 翌日、早朝。家令とファルク様が神妙な顔で話し合っていた。

「どうかされましたか?」

 声をかけると、ファルク様が目を細めて、手紙らしきものを胸ポケットにしまう。

「いや。なにもない。よく眠れたかい?」

 ファルク様の笑顔に、かげりがある。私は落ち着かなくなり、ファルク様に尋ねた。

「……今、胸にしまった手紙って、まさか……ロジェリオからですか……」

 問いかけると、ファルク様の眉根にしわがよる。

「そうだが、あなたは見なくていい。これ以上、あなたが彼に心を乱されなくていいんだ」
「でも……」
「ピア嬢、この件は私に任せてくれないか?」
「……ちゃんと教えてください」
「ピア嬢?」
「……ロジェリオが何をしたのか、ちゃんと知りたいんです。そうじゃないと!」

 私はファルク様を見上げる。

「私、安心できない」

 敬語も忘れて、彼に訴えてしまった。
 ファルク様はじっと私を見た後、胸ポケットから手紙を取り出した。

「読むなら、私の前で」
「はい……」

 ファルク様から手紙を受け取る。震えそうになる手を動かし、中身を見た。


 ピアへ

 きみのそばにいる男とは、どんな関係なの?
 ぼくも恋人をもって、きみの気を惹きたかったときがあったから。
 恋人だったとしても、ゆるしてあげるよ。
 でも、あの男はやめたほうがいい。
 きみにふさわしくないよ。

 ロジェリオ・ローリングより


 手紙を読んだ瞬間、かっと頭に血が昇る。
 恐怖が、激しい怒りに変わった。

「どこまで勝手な人なのっ!」

 ファルク様を悪くいうなんて!
 もう勘弁できない!
 かっかしながら、手紙をたたみ、勢いよくファルク様に言う。

「ファルク様! ロジェリオを捕まえるためには、何をすればいいですかっ!」

 鼻を鳴らすと、ファルク様は苦笑した。

「あなたまで血気盛んになることはないのだがな……怒った顔もいいな」

 手紙は屋敷の玄関前に石をのせて置かれていた。家令とファルク様の話では、手紙にそんなことをされたのは初めてだそう。ここに居ることを知っているということは、ロジェリオは身をひそめて、私を付け回している。今も近くにいるかもしれない。

 そこで、私はファルク様とお芝居することにした。