2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 ファルク様の領地にある修道院は、想像以上に荒れはてていた。建物は雨漏りがひどく、民に配給しているスープには味がない。よれよれの修道女が3人。トオイメをしていた。

「これは……なかなか……直しがいがありますね」

 私の中で、火がついた。ここを恩師がいる修道院みたいにしたいと思った。あそこは、ハーブの楽園だ。

 ファルク様に恩師の修道院で学んだことを伝える。

「ハーブ園を作り、ハーブ療法をしたいです。修道院の周りではいい土があります。ハーブだけでは足りませんから、ため池を作り、魚を養殖しましょう。狩った動物たちは、冬が来る前に燻製にして、……ファルク様、この土地はパンを焼くときに税金をかけますか?」
「いや。みな、食うために必死だからな。腹を満たす手段をとりたい」
「そうですか。……ファルク様は民のための主なのですね」

 ファルク様の気遣いが、この地にも息づいている。私も力になりたい。

 恩師と頻繁に手紙のやりとりをして、修道院改革のアドバイスをもらった。落ち着いたころに、弟にも手紙を送った。返事はなかったけど、元気でやっていることだろう。

 領民のみなさまが、快く私の計画を手伝ってくれて、一年。
 雨漏りはなくなり、スープには修道院の周りで作ったハーブや、野菜が入れられるようになった。燻製した魚や、肉も。
 よれよれだった3人の修道女も、頬につややかさが戻っていった。

 忙しいけど、満たされた日々だった。

 ――と、思っていたのに。


「……どうして……今さら」

 ロジェリオのことは忘れていた。結婚していたことも、綺麗さっぱり頭から抜けていた。思い出すことはなかった。なのに、どうして……!


『ぼくたちが別れたのは、お互いを知るために必要な時間だったんだね。

 今ならきみの全てを受け入れられる。
 きみの過ちもゆるせる。
 意地を張らずに、戻っておいで。』


 2年ぶりに見るロジェリオの名前に、ぞくぞくと背筋が凍った。手紙を届けてくれたリチャードを見送った後も、その場から動けずに、私はロジェリオからの花束と手紙を見つめていた。