2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 告解室の出来事は、教会法で守られ、外にもれることはない。ゆるしを得た私は、清々しい気持ちで、大聖堂を出た。

 私を見たファルク様は、ほほ笑みながら胸に手をあてて、腰をおった。

「無事に終わりましたか?」
「ええ……本当にここまでありがとうございました」

 私は深く頭を下げた。顔をあげると、ファルク様が目を細めて笑っていた。

「よい旅になりましたか?」
「はい。とっても」

 すっきりした気持ちで言うと、ファルク様が急に口を引き結んだ。なにやら、落ち着かなさそうだ。そして、ぼそっと呟く。

「……美人の巡礼者を口説くなとは、部下に言えんな……」
「え?」
「ああ、いや……ピア嬢。これからどうするんだい?」
「ああ、……」

 これからのことを考えていなかった。

「実家にも戻れませんし、恩師のところに行って、修道女になろうかと」
「そうか……あなたが、良いならば……なのだが」

 ファルク様が歯切れ悪く言う。

「私の領地に来ないか?」
「――え?」
「まだまだ開発中の土地で、修道院は人手が足りない。あなたの薬草の知識は貴重だし、来てもらえるならっ ああ、いやっ……言いたいことは領主としてではなくっ」

 ファルク様が言葉をきった。ぐっと眉根を寄せ、頭をぐしゃぐしゃになるまで掻き毟る。乱れた黒髪にぎょっとしていると。

「私は、あなたと別れがたいんだ。……いち個人として」

 熱をはらんだ眼差しで見つめられた。頬に熱をかんじながら、私はうつむく。

「あ、あの……はい。えっと……」

 こういうシチュエーションははじめてだ。どう答えてよいのか分からない。
 私は両肩をすくめながら、ファルク様を見上げる。

「……また、私が作ったお菓子や料理を食べてくれますか?」

 そういうと、ファルク様は無邪気な笑顔になった。

「もちろんだ。何度でも食べたい」

 笑顔にほっとして、私はファルク様の領地に行った。