2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

「……ありがとう。姫の気持ちを考えると気がすすまなかった。だが、陛下の言葉でもあるし……と、迷っていたら、今の騎士団にいる部下にこっぴどく怒られてね」
「え?」
「『あなたは足を国に捧げたのに、心まで国に捧げるつもりですか! それは違うでしょう!』って」

 部下の口真似をした後、ファルク様はふっと笑みを口元におとした。そして、靴を履きながら、話をつづける。

「私から縁談を断った。陛下にはネチネチ言われたが、結婚は断ってよかったと思っている。代わりの褒章として、辺境の土地を与えられた。大火災があった後でな。建物はボロボロだったが、気持ちのいい人々が多い土地だ」

 戦の褒章として、小さな土地の領主となったファルク様は、その地で騎士団を設立。聖地巡礼の護衛という役目を教皇聖下から賜ったそうだ。

「騎士は続けられている。今の生活には満足だ」
「そうでしたか」
「だから、ピア嬢」

 脳に響く、いい声で呼ばれた。

「あなたを大切にしなかった人々を、心に留めることはない」
「……ファルク、さま……」
「自分ではどうにもできないことは、多々ある。それでも、過去にケリをつけようとするあなたは眩しい」
「そんなことっ……」
「最後まで、あなたの護衛をすると改めて誓ってもいいだろうか?」

 ファルク様は私の前で跪いた。ふいの行動に驚いて、目をぱちくりさせる。
 訳がわからずにいると、ファルク様は左手の甲を前に出すように言った。
 ファルク様は大きな手のひらで、私の小さな手をすくいあげる。
 触れるだけのキスを私の手の甲に落とした。
 びっくりしすぎて、両肩が跳ねた。

「あなたの旅が、あなたの未来を照らすものになりますように」

 ファルク様が私を見上げて言う。慈愛に満ちた瞳を見て、心臓がきゅうと掴まれた。

 そんなに優しくしないでほしい。勘違いしてしまうから。

 ファルク様は騎士として、職務をまっとうしようとしてくれているだけだ。
 それ以上でも、それ以下でもない。

 早鐘を打つ心臓の音が、ファルク様に聞こえないよう、私は服の上から胸元をぎゅっと握りしめた。