2年前、離婚したはずの夫から、花束と手紙が届きました

 歩きの旅だから、足が疲れる。私はハーブティーを淹れて、ファルク様にもすすめた。

「マジョラムのハーブティです。苦味はまろやかで、飲みやすいです。いかがですか?」
「ああ、ピア嬢。ありがとう……うむ。甘くて、すっきりした味だな」

 こうして私は、身に着けた薬草の知識を使いながら、ファルク様と旅をした。

 寝泊まりさせてくれる教会に頼んでハーブを分けてもらったり、地元のシスターたちに、ハーブ料理をふるまったり。
 ひとりの時とは違う、ロジェリオと一緒にいたときとも違う、心地よさを感じていた。
 その輪の中で、いつも中心にいたのはファルク様。
 私の料理を本当に美味しそうに食べてくれた。うれしかった。

 ファルク様は、旅の間、ずっと私を気づかってくれた。男性とふたり旅だというのに、ふしぎと居心地がいい。
 おおらかな笑顔、否定のない言葉。
 ふとした瞬間の、ファルク様の目線が、歩幅が、座ったときの位置が、心地よい。距離感がちょうどいい。

 旅も終盤になると、私はすっかりファルク様に気をゆるしていた。自分の結婚生活をぽろっと言って、笑い話にしてしまうぐらいに。

「結婚生活をおしまいにしたくて、聖地に行くんです……本当に元夫とは、話がかみ合わなくて、まいっちゃいました」

 なるべく軽く。大したことがない話にしたかったのに、ファルク様は笑わない。真剣に聞いてくれた。

「……私がその場にいたら、元夫を斬っているかもな……」
「えっ」
「あ、いや……」

 ファルク様は気まずそうに頭をがしがしとかきむしった。

「ピア嬢、私の昔話も聞いてくれるかい?」
「えっ、ええ……」
「私は戦地で右足を失った。今は義足を付けている」

 そういってファルク様は靴を脱いで、義足をみせた。膝から下が木製の義足だ。
 ぎょっとしたけど、それを口にしてはいけない。ファルク様が戦ったあかしだもの。

「私は義足を付けても、戦った。そうしている者も多かったしね。戦うことが誇りだった。だが、戦いが終わり、褒章として姫君を下賜されることになってね……」
「……聞いたことがあります。でも、お断りになられたとか……」
「ああ、そうだね。私は地方貴族の端くれだったから、王族に名を連ねることが、最大の褒美と思われたのだろう。だが、姫君は齢14歳。その時、私は27歳。年齢が釣り合わなかった」
「……それでお断りに?」
「姫が良しとするなら、と思ったのだが、……姫に、おじさんは嫌だとハッキリ言われたよ」
「えっ……? でも、陛下からのお話だったんですよね……?」
「そうだったが、私に魅力がなかったのだろう。姫には好まれなかった」
「そんな、ファルク様はすてきな方ですのにっ」

 思わず本音を言ってしまい、慌てて口を閉じる。
 私ったら、何を言っているのかしら。もおっ。