…さて。

「それで…そろそろ仕事の話に入るが」

「はぁ。ルルシーが俺と結婚してくれたらなぁ…」

「話を聞け」

ん?俺、今何か言った?

心の声がうっかりぽろりしてしまったようだ。

「お前な。割と大事な話なんだぞ?」

「はいはい。ちゃんと聞きますよ」

俺にとっては、ルルシーとの結婚以上に大事な話なんて存在しないんだが?

ルルシーはソファに座り直して、それからぐるりと周囲を見渡した。

「…一応確認しておくけど、この部屋、盗聴器の類はないよな?」

さっきまでの雑談ならいざ知らず、今からする話は外部に漏れたら不味い、と。

どうやらルルシーは、本当に相当大事な話をするつもりらしいな。

「俺の店ですから。その辺は徹底してますよ」

従業員はおろか、この店に来る客は全員、素性は徹底的に洗ってある。

盗聴器やカメラの類が仕掛けられることは有り得ない。

俺だって本業はマフィアなのだ。そこは抜かりない。

「…結論から言う。帝国騎士団が動き出した」

「…ほう…」

あの帝国騎士団が。

腰に鉛でもついてるような連中が、ようやく動き出したと。

「近頃、『シュレディンガーの猫』がかなり大胆になってきていてな。帝国騎士団も無視出来ないんだろう」

「そんなに大胆なんですか?」

最近の俺は表社会でルナニアとして過ごしており、身元がばれるのを防ぐ為に、『青薔薇連合会』との連絡も最低限で済ませている。

つまり、裏社会の事情に詳しくないのだ。

「あぁ。表社会じゃあまり聞かれていないか」

「特には」

「そうか。…なら、帝国騎士団が仕事をしてるんだろうな」

表社会に生きる帝国民を守る為に、裏社会のマフィアについては、帝国騎士団が厳重な情報統制を敷いているのだろう。

全く忌々しい。こんなときだけ真面目に仕事をしやがる。

それ故、俺の耳には入らないが。

ルルシーのこの様子では、裏社会ではかなり荒れているらしいな。

「うちの傘下組織もそれなりの被害が出てる。それに奴ら、平気で表社会にもちょっかいを出すからな。帝国騎士団も抑えきれなくなってきてるんだ」

「へぇ…」

そりゃご愁傷様。まぁ精々仕事をしてくれ。

表社会を守るのは奴らの役目であって、俺達は預かり知らない。

…と、言いたいところだが。

「その上で帝国騎士団が、俺達『青薔薇連合会』との会合を申し込んできた」

「…」

…成程、アシュトーリアさんが、電話やメールではなく、わざわざルルシーを俺のもとに寄越した理由はこれか。