ルレイア、ことルシファーを巡る一件以来、俺はこの男のことをどうにも許しがたいが。

それでも憎みきることは出来ない。

オルタンスはオルタンスで、良かれと思ってあんな選択をしたのだと分かっているから。

…それはさておき。

「…何にやにやしてんだ、気色悪い」

「にやにやしてるか?」

「お前がテンション高いなんて気持ち悪いからやめろ」

帝国騎士団長に対して、随分な物言いだが。

オルタンスは怒らない。そもそも、この男に喜怒哀楽がまともにあるとは思えない。

それが欠如しているから、この男は帝国騎士団長が務まるのだろうが。

「済まない。少し良いことがあったものでな」

「…良いこと?」

「あぁ。チョコレートをもらった」

オルタンスは、手に提げていた真っ黒な紙袋を掲げて見せた。

…チョコ?

何でチョコなんだ?

「あぁ。今日…バレンタインだったか」

リーヴァに言われて、初めて思い出した。

そういやそうだ。世間ではそんなイベントがあったんだな。

縁がないものだから、忘れていた。

成程、それでチョコレート…。

…。

「…はぁ?」

思わず、俺は目を疑った。

オルタンスが、チョコだと?

「お前に渡すような人間がこの世にいたのか?」

「あぁ。ルレイアだ」

「成程、ルレイア…」

…。

今度は、自分の耳を疑った。

…ルレイアだと?

「はぁ!?」

「さ…差出人違いではないのか?ルシファー殿が、チョコレートを送ってくるなんて」

リーヴァも驚きのあまり、声が裏返っていた。

その気持ちはよく分かる。

「いや、確かにルレイアだ。その証拠に…見ろ。この紙袋、奴が贔屓にしているアダルトグッズ専門店のものだ」

「紙袋のチョイスに悪意を感じるな…」

そして、それを堂々と持ち歩くんじゃねぇよ。お前は。

「ちなみに、中には媚薬を買ったと思われるレシートまで入っていた…。間違いなくルレイアだ」

「だろうな」

この上なく分かりやすい身分証明だ。

ということは、ルレイアが送ってきた、というのは確かなのだろう。

だが、この男が何故それを嬉しそうに見せびらかしているのかについては、全く理解出来ない。