脱国者、とは。
ルティス帝国でその言葉は、隣国の箱庭帝国から逃れてきた難民を意味する。
箱庭帝国は、その劣悪な環境のせいで…亡命しようとする人々が後を絶たない。
けれどルティス帝国は、そのような脱国者を受け入れてはいなかった。
受け入れようとしても、キリがないのだ。
それに、箱庭帝国からの難民を受け入れれば、箱庭帝国の政府と揉めることになる。
仕方なく、ルティス帝国は難民を受け入れず、不法入国者として捕まえて、そのまま箱庭帝国に突き返していた。
そして、箱庭帝国に送還された難民は、例外なく全員処刑される。
箱庭帝国では、脱国は大罪だからだ。
フューニャの名前が、ルティス帝国にはない独特な響きだったこと。
ルティス帝国では珍しい髪の色をしていること。
身寄りがないなら行政を頼れば良いはずなのに、わざわざ過酷な路上生活をしていたこと。
そして、見たこともないような郷土料理。
フューニャがあの国から逃げてきた人間であることに…俺は薄々気づいていた。
「…箱庭帝国にいた家族は、私一人を逃がして…憲兵局に捕まりました。今頃は…もう処刑されているでしょう」
「…」
フューニャは、暗い顔でそう語った。
「命からがら、私一人だけが国境を越えました。でも…国籍がなく、身寄りもない不法入国者の私が、身を汚さずに生きていくことは出来ませんでした。今だって…いつ警察や帝国騎士団に捕まるか分かりません。私が捕まったら…あなたまで類が及ぶかもしれません」
…脱国者を匿っていた『青薔薇連合会』の準幹部。
そんなことがばれたら、どうなるか。
考えるでもなく、厄介なことになると分かる。
「私は…あなたの傍にいるべきではありません。あなたのような優しい人には…」
フューニャは、瞳に浮かぶ涙を拭いながらそう言った。
「そう長く逃げられないのは分かっています。遅かれ早かれ、私は捕まるでしょう…。そして、身分証明書がないことが分かったら、国に送り返されてしまいます。その後は…間違いなく処刑されます」
「…そうだろうな」
あの国は異常だ。国を統治する憲兵局に逆らえば、容赦なく処刑される。
国から脱走したともなれば、処刑は免れない。
フューニャは殺される。
「あの国に生まれた運命なんだと、理解しています…。死ぬ前にあなたのような、優しい人に会えて良かった。もう充分です…。私はもう、」
「…まず真っ先にすべきことは、お前の戸籍を手に入れることだ」
「…え?」
フューニャはぽかんとして、俺を見つめた。
まずはフューニャの戸籍を手に入れる。闇に流れている架空の戸籍を買うのだ。
これは、幹部のアイズレンシアさんに頭を下げて頼もう。
あの人なら、そういったことは得意なはずだ。
「国籍を取得出来れば、お前は合法的にルティス帝国に留まることが出来る。勿論綺麗な戸籍という訳ではないから、行政から保護を受けるのは難しいかもしれないが…。その代わり、もっと綺麗な仕事を斡旋しよう」
「どうして…そこまで」
何で、他人の俺がそこまでするのかと聞きたいのだろう。
確かに、自分でも何でこんなことをしようとしているのか、よく分からない。
ルティス帝国でその言葉は、隣国の箱庭帝国から逃れてきた難民を意味する。
箱庭帝国は、その劣悪な環境のせいで…亡命しようとする人々が後を絶たない。
けれどルティス帝国は、そのような脱国者を受け入れてはいなかった。
受け入れようとしても、キリがないのだ。
それに、箱庭帝国からの難民を受け入れれば、箱庭帝国の政府と揉めることになる。
仕方なく、ルティス帝国は難民を受け入れず、不法入国者として捕まえて、そのまま箱庭帝国に突き返していた。
そして、箱庭帝国に送還された難民は、例外なく全員処刑される。
箱庭帝国では、脱国は大罪だからだ。
フューニャの名前が、ルティス帝国にはない独特な響きだったこと。
ルティス帝国では珍しい髪の色をしていること。
身寄りがないなら行政を頼れば良いはずなのに、わざわざ過酷な路上生活をしていたこと。
そして、見たこともないような郷土料理。
フューニャがあの国から逃げてきた人間であることに…俺は薄々気づいていた。
「…箱庭帝国にいた家族は、私一人を逃がして…憲兵局に捕まりました。今頃は…もう処刑されているでしょう」
「…」
フューニャは、暗い顔でそう語った。
「命からがら、私一人だけが国境を越えました。でも…国籍がなく、身寄りもない不法入国者の私が、身を汚さずに生きていくことは出来ませんでした。今だって…いつ警察や帝国騎士団に捕まるか分かりません。私が捕まったら…あなたまで類が及ぶかもしれません」
…脱国者を匿っていた『青薔薇連合会』の準幹部。
そんなことがばれたら、どうなるか。
考えるでもなく、厄介なことになると分かる。
「私は…あなたの傍にいるべきではありません。あなたのような優しい人には…」
フューニャは、瞳に浮かぶ涙を拭いながらそう言った。
「そう長く逃げられないのは分かっています。遅かれ早かれ、私は捕まるでしょう…。そして、身分証明書がないことが分かったら、国に送り返されてしまいます。その後は…間違いなく処刑されます」
「…そうだろうな」
あの国は異常だ。国を統治する憲兵局に逆らえば、容赦なく処刑される。
国から脱走したともなれば、処刑は免れない。
フューニャは殺される。
「あの国に生まれた運命なんだと、理解しています…。死ぬ前にあなたのような、優しい人に会えて良かった。もう充分です…。私はもう、」
「…まず真っ先にすべきことは、お前の戸籍を手に入れることだ」
「…え?」
フューニャはぽかんとして、俺を見つめた。
まずはフューニャの戸籍を手に入れる。闇に流れている架空の戸籍を買うのだ。
これは、幹部のアイズレンシアさんに頭を下げて頼もう。
あの人なら、そういったことは得意なはずだ。
「国籍を取得出来れば、お前は合法的にルティス帝国に留まることが出来る。勿論綺麗な戸籍という訳ではないから、行政から保護を受けるのは難しいかもしれないが…。その代わり、もっと綺麗な仕事を斡旋しよう」
「どうして…そこまで」
何で、他人の俺がそこまでするのかと聞きたいのだろう。
確かに、自分でも何でこんなことをしようとしているのか、よく分からない。


