The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

その晩。

俺が入浴後に自分の寝室に入ると。

…何故か、ベッドの上の毛布がこんもりと盛り上がっていた。

「…何やってんの?」

「…」

フューニャが、毛布からぽこんと顔を出した。

…亀みてぇ。

「夜這いしようかと思いまして」

「すんなよ…」

しなくて良いって言っただろうに。

するとフューニャは、不満げに毛布から這い出た。

「私はあなたに施しを受けるばかりで、ちっともあなたにお返しが出来ていないので」

「しなくて良いよ。それに…充分返してもらってる。家のこと世話してくれてるし…」

「…それだけじゃ全然足りません」

「…」

だからって…夜這いは勘弁して欲しいのだが。

「あなたは優しいから、私の面倒を見てくれます。でも私は…それがとても申し訳ないのです。あなたの善意のみによって、私は生かされている…」

「…」

「これ以上ここにいたら、私はあなたに甘え続けてしまうでしょう。あなたに迷惑をかけ続けてしまう…。それは、嫌なんです」

フューニャは、これまでずっと言いたくて、言えなかったことを…初めて、口に出した。

…迷惑、か。

「もう充分、あなたには良くしてもらいました。これ以上あなたに甘えるのはいたたまれません。私を抱いてください。さもなければ、私をここから追い出してください」

「…」

好きでもない女は、抱けない。

だとすると、俺は彼女を追い出さなければならないが。

…でも、それも出来そうになかった。

「…お前を追い出すことは出来ない。追い出したら…お前はまた、身体を売ったり、金にならない占いをしたりして稼がないといけないんだろう?」

「…そうなりますね」

「そんな日々に戻りたいか?」

「…戻りたいはずがありません。でも…これ以上あなたの善意に甘える訳には」

俺はベッドサイドに腰を掛けた。

フューニャに何て言おうかと、考えていたのだ。

彼女が出ていく、と言うならそれを止めることは出来ない。

止める必要もないはずだ。元々彼女は居候なのだから、出ていくなら出ていかせれば良い。

俺は、以前の日常に戻る。

彼女もまた、以前の日常に戻る。

何の問題もないはずだ。元々は、それが当たり前だったのだから。

…それなのに。

俺は必死に…フューニャを引き留めようとしていた。

「…フューニャ。お前、家族は?」

「え?」

「近しい親類でなくても良い。ルティス帝国に家族はいないのか。俺が探してやる」

『青薔薇連合会』の権力を以てすれば…難しいことではない。

フューニャをこのまま、拠り所なく放り出すことは出来なかった。

「…残念ながら、いませんね」

「行政に頼ることは?」

「出来ません。私は…国籍がありませんから」

…やはり、そうか。

薄々そうではないかと思っていたが。

「…フューニャ、お前…脱国者なのか」

「…」

フューニャは、きつく唇を噛み締めた。