言いたいことを言って、ルシェはもう用は済んだとばかりに立ち上がった。

「…余計なお世話かもしれないがな」

言うべきではない。ルレイアが聞けば、余計なこと言わないでくださいよ、と口を尖らせそうだ。

でも、俺はルシェをあながち悪者だとは思えなかった。

ルシェがルレイアを信じていたら、ルレイアの親友は俺ではなく、ルシェだったはずだ。

俺とルシェの間に、元々大した差はなかった。

ほんの少し何かが違っていれば、ルレイアはルシェに盗られてしまっていたかもしれないのだ。

だから、俺はルシェを憎むことが出来ない。

「あんたはもう…ルレイアに、自分の弟に…囚われる必要はないと思うぞ」

「…」

「ルレイアはもう、新しい自分の人生を生きてる。だから…」

ルレイアを忘れてしまえ、とは言わない。

だが、これ以上ルシェが…過去に囚われて生きる必要はない。

「…そうだな」

ルシェは小さく頷いた。

「新しい人生…か。あの子はそれを…許してくれるだろうか」

「…許すも何もない」

ルレイアはルシェが自分のことを忘れようと、忘れて新しい人生を生きていこうと、どうでも良いはずだ。

「…あんたが愛していた『ルシファー』は…きっと、それを望んでいるはずだ」

「…」

あの二人は…元々。

仲の良い…姉弟だったのだから。

「…ルシファーがお前を選んだ理由が、分かった気がする」

「は…?」

ルシェは、何かが吹っ切れたような顔で、俺を振り返った。

「もう少しすれば、我々はまた敵同士だ。そうなる前に…話を出来て良かった」

「…あぁ…」

「それでは、ルシファー…いや、ルレイアか。あの子を頼む」

そう言い残して、ルシェは部屋から出ていった。

…俺は少しでも、ルシェの慰めになったのだろうか?

ルシェが立ち直れようと、立ち直れまいと…俺の預かり知るところではない。

でも、彼女のことを愛していたルシファーなら。

きっと…俺と同じように言うはずだ。

ルレイアは、ちゃんと幸せになってるんだから。

あんたも多分、そうなって良いんだ。

そのくらいは…ルレイアも許すだろうから。

「…全く。お節介だな、俺も」

敵に塩を送るようなものだ。

でも、彼女にああ言ったことを…後悔はしていなかった。