アリューシャは狙撃ポイントに着くなり、ガンケースからライフルを取り出した。

「…あれ?」

アリューシャのガンケースなのに、中に入っていたライフルはアリューシャのものではなかった。

これ、シュスリーのライフルじゃん。

何でアリューシャのガンケースの中に…?

…さてはシュスリー、間違えたな?

思わず頬が緩んだ。この際、遠慮なく使わせてもらうぞ。

帰って自慢してやる。シュスリーのライフル使ってやった、って。

アリューシャは、スコープ越しに初めてアシュトーリアさんを見た。

黒塗りの車から、護衛役のアイズレンシアと一緒に降りてきた。

遠目から見ても、綺麗な人だな、と思った。

「あれが、『青薔薇連合会』のボス、か…」

とても悪いことする人には見えないが、あれでもマフィアなのか。

まぁ、シュスリーだって一応マフィアだけど、とてもそんな風には見えんしな。

意外にそんなもんだ。

「さて…」

やるか。

相手が超大物だろうが、雑魚のチンピラだろうが、やることは変わらない。

アリューシャがライフルを構えたということは、やることはただ一つ。

狙いを定め、一発に魂を込める。絶対に外さない。

この一発を当てる為に、アリューシャは今まで、何万何億回と外してきた。

だから、もう外さない。

冷徹に引き金を引く。その瞬間に、アリューシャは勝利を確信した。

この弾は当たる。そう思った。

そしてアリューシャの予想通り、放たれた弾丸は真っ直ぐ、ターゲットの心臓を貫いた。

だが。




「…は?」

玩具みたいにこてん、と倒れたターゲットの身体から、一滴の血も流れなかった。

まるで、マネキンか何かでも撃ち抜いたかのような…。

「…そこまでだ」

振り向くと、そこには物騒な拳銃を持った強面の黒服達が、アリューシャを取り囲んでいた。

「…あらら」

アリューシャは、自分の敗北を知った。

これは…駄目だな。

どうすることも出来なかった。長距離戦闘ならアリューシャに分があるが、ここまで近距離で、しかも囲まれては、どうすることも出来ない。

死んだな。

アリューシャに出来ることは、降参して、せめて苦しまずに殺してくれるよう頼むことだけだった。