The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

その夜。アリューシャはいつも通り、日が落ちてから活動を始めていた。

アリューシャはゴキブリと同じ習性を持っているので、動き出すのはいつも夜なのだ。

昼間にゴミ漁ってるの見られたら、顰蹙買うしな。

いつものようにゴミ捨て場からめぼしいゴミ袋を回収し、ねぐらにしていた路地裏に戻る。

薄暗い外灯の下で、アリューシャはゴミ袋を開けた。

なんか食べられそうなものないかな…と漁り回す。

端から見れば、なんともおぞましい光景だったろうが。

アリューシャにとっては、ごく当たり前の日常であった。

ルレ公の日常が、女の子を騙してイチャイチャすることであるのと同じ。

アリューシャの日常は、ゴミ捨て場からゴミを持ってきて漁ることだったのだ。

しかし。

「…」

今日の収穫は、なしだな。

食べられそうなものが、何もない。

お菓子のパッケージはあったけど、ビスケットらしいお菓子のクズがちょびっとこびりついてるだけ。

仕方ないので、そのクズをぺろぺろ舐めた。

非常に行儀が悪いが、アリューシャに行儀なんてものを教えてくれた人間なんて、今まで一人もいないのだから仕方ない。

ついでに、ちょっと綺麗そうなティッシュを選り分けて、それをがじがじと齧っていた。

美味しくはなかったが、何かを口に入れていたら空腹が紛れる気がしたから。

あぁ、腹減った。

すると、そこに。

「…これは驚いたね。こんなところに子供がいるなんて」

「…あ?」

ティッシュを齧りながら首を捻ると、そこには若い人間がいた。

男か女かもよく分からない。最後まで、あの人が何者だったのか分からないままだった。

死んではいないと思うけど、何処でどうしているのやら。

その人は、何故か楽しげにアリューシャを見つめていた。

「…誰だよ」

アリューシャはティッシュを齧るのをやめずに、生意気な口調で尋ねた。

するとそいつは、微笑みさえ浮かべながら聞き返してきた。

「君が誰だ?」

「知らん」

この返事は間違ってはいない。アリューシャは自分が何者か全く分かっていないのだから。

「そうか…。名前はないの?」

「ない。あったのかもしれないけど知らん」

「じゃあ、当然親兄弟もいないね。それで君、何食べてるの?」

「ちり紙」

それがちり紙だということは、かろうじて分かるアリューシャだった。

「やめた方が良いよ。それ汚いから」

「知らん」

人の食べ物を汚いとかなんとか。なんて失礼な奴なのだ。

その人の言っていることの方が明らかに正しいということに、アリューシャは気づいていなかった。

「食べるものがないの?」

「あったらこんなもん食ってねぇよ。不味いのに」

あくまで、ちり紙は食べ物であった。

ただ不味いというだけで。

「何か持ってたかな…あ、良いものあった」

その人は自分のコートのポケットを探り、板状の何かを取り出した。

それが何なのか、アリューシャは知らなかった。

「あげるよ、これ」

「…これ何?」

手渡されたそれを、アリューシャは訝しげに眺めた。

後に知ったのだが、これは板チョコであった。

けれどもそのときのアリューシャは、板チョコなんて見たこともなければ、食べたことなんて一度としてなかった。

「食べてごらん」

「食べる?食べもんなの?これ」

「そうだよ」

「ふーん」

まぁ食べ物ってんなら、口に入れて良いものなんだろう。

アリューシャはあろうことか、その板チョコを、銀紙に包まれた状態のまま、思いっきりがじっ、と齧った。