その夜。アリューシャはいつも通り、日が落ちてから活動を始めていた。
アリューシャはゴキブリと同じ習性を持っているので、動き出すのはいつも夜なのだ。
昼間にゴミ漁ってるの見られたら、顰蹙買うしな。
いつものようにゴミ捨て場からめぼしいゴミ袋を回収し、ねぐらにしていた路地裏に戻る。
薄暗い外灯の下で、アリューシャはゴミ袋を開けた。
なんか食べられそうなものないかな…と漁り回す。
端から見れば、なんともおぞましい光景だったろうが。
アリューシャにとっては、ごく当たり前の日常であった。
ルレ公の日常が、女の子を騙してイチャイチャすることであるのと同じ。
アリューシャの日常は、ゴミ捨て場からゴミを持ってきて漁ることだったのだ。
しかし。
「…」
今日の収穫は、なしだな。
食べられそうなものが、何もない。
お菓子のパッケージはあったけど、ビスケットらしいお菓子のクズがちょびっとこびりついてるだけ。
仕方ないので、そのクズをぺろぺろ舐めた。
非常に行儀が悪いが、アリューシャに行儀なんてものを教えてくれた人間なんて、今まで一人もいないのだから仕方ない。
ついでに、ちょっと綺麗そうなティッシュを選り分けて、それをがじがじと齧っていた。
美味しくはなかったが、何かを口に入れていたら空腹が紛れる気がしたから。
あぁ、腹減った。
すると、そこに。
「…これは驚いたね。こんなところに子供がいるなんて」
「…あ?」
ティッシュを齧りながら首を捻ると、そこには若い人間がいた。
男か女かもよく分からない。最後まで、あの人が何者だったのか分からないままだった。
死んではいないと思うけど、何処でどうしているのやら。
その人は、何故か楽しげにアリューシャを見つめていた。
「…誰だよ」
アリューシャはティッシュを齧るのをやめずに、生意気な口調で尋ねた。
するとそいつは、微笑みさえ浮かべながら聞き返してきた。
「君が誰だ?」
「知らん」
この返事は間違ってはいない。アリューシャは自分が何者か全く分かっていないのだから。
「そうか…。名前はないの?」
「ない。あったのかもしれないけど知らん」
「じゃあ、当然親兄弟もいないね。それで君、何食べてるの?」
「ちり紙」
それがちり紙だということは、かろうじて分かるアリューシャだった。
「やめた方が良いよ。それ汚いから」
「知らん」
人の食べ物を汚いとかなんとか。なんて失礼な奴なのだ。
その人の言っていることの方が明らかに正しいということに、アリューシャは気づいていなかった。
「食べるものがないの?」
「あったらこんなもん食ってねぇよ。不味いのに」
あくまで、ちり紙は食べ物であった。
ただ不味いというだけで。
「何か持ってたかな…あ、良いものあった」
その人は自分のコートのポケットを探り、板状の何かを取り出した。
それが何なのか、アリューシャは知らなかった。
「あげるよ、これ」
「…これ何?」
手渡されたそれを、アリューシャは訝しげに眺めた。
後に知ったのだが、これは板チョコであった。
けれどもそのときのアリューシャは、板チョコなんて見たこともなければ、食べたことなんて一度としてなかった。
「食べてごらん」
「食べる?食べもんなの?これ」
「そうだよ」
「ふーん」
まぁ食べ物ってんなら、口に入れて良いものなんだろう。
アリューシャはあろうことか、その板チョコを、銀紙に包まれた状態のまま、思いっきりがじっ、と齧った。
アリューシャはゴキブリと同じ習性を持っているので、動き出すのはいつも夜なのだ。
昼間にゴミ漁ってるの見られたら、顰蹙買うしな。
いつものようにゴミ捨て場からめぼしいゴミ袋を回収し、ねぐらにしていた路地裏に戻る。
薄暗い外灯の下で、アリューシャはゴミ袋を開けた。
なんか食べられそうなものないかな…と漁り回す。
端から見れば、なんともおぞましい光景だったろうが。
アリューシャにとっては、ごく当たり前の日常であった。
ルレ公の日常が、女の子を騙してイチャイチャすることであるのと同じ。
アリューシャの日常は、ゴミ捨て場からゴミを持ってきて漁ることだったのだ。
しかし。
「…」
今日の収穫は、なしだな。
食べられそうなものが、何もない。
お菓子のパッケージはあったけど、ビスケットらしいお菓子のクズがちょびっとこびりついてるだけ。
仕方ないので、そのクズをぺろぺろ舐めた。
非常に行儀が悪いが、アリューシャに行儀なんてものを教えてくれた人間なんて、今まで一人もいないのだから仕方ない。
ついでに、ちょっと綺麗そうなティッシュを選り分けて、それをがじがじと齧っていた。
美味しくはなかったが、何かを口に入れていたら空腹が紛れる気がしたから。
あぁ、腹減った。
すると、そこに。
「…これは驚いたね。こんなところに子供がいるなんて」
「…あ?」
ティッシュを齧りながら首を捻ると、そこには若い人間がいた。
男か女かもよく分からない。最後まで、あの人が何者だったのか分からないままだった。
死んではいないと思うけど、何処でどうしているのやら。
その人は、何故か楽しげにアリューシャを見つめていた。
「…誰だよ」
アリューシャはティッシュを齧るのをやめずに、生意気な口調で尋ねた。
するとそいつは、微笑みさえ浮かべながら聞き返してきた。
「君が誰だ?」
「知らん」
この返事は間違ってはいない。アリューシャは自分が何者か全く分かっていないのだから。
「そうか…。名前はないの?」
「ない。あったのかもしれないけど知らん」
「じゃあ、当然親兄弟もいないね。それで君、何食べてるの?」
「ちり紙」
それがちり紙だということは、かろうじて分かるアリューシャだった。
「やめた方が良いよ。それ汚いから」
「知らん」
人の食べ物を汚いとかなんとか。なんて失礼な奴なのだ。
その人の言っていることの方が明らかに正しいということに、アリューシャは気づいていなかった。
「食べるものがないの?」
「あったらこんなもん食ってねぇよ。不味いのに」
あくまで、ちり紙は食べ物であった。
ただ不味いというだけで。
「何か持ってたかな…あ、良いものあった」
その人は自分のコートのポケットを探り、板状の何かを取り出した。
それが何なのか、アリューシャは知らなかった。
「あげるよ、これ」
「…これ何?」
手渡されたそれを、アリューシャは訝しげに眺めた。
後に知ったのだが、これは板チョコであった。
けれどもそのときのアリューシャは、板チョコなんて見たこともなければ、食べたことなんて一度としてなかった。
「食べてごらん」
「食べる?食べもんなの?これ」
「そうだよ」
「ふーん」
まぁ食べ物ってんなら、口に入れて良いものなんだろう。
アリューシャはあろうことか、その板チョコを、銀紙に包まれた状態のまま、思いっきりがじっ、と齧った。


