The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

その他に考えられる食べ物の調達方法として、盗むという手段がある。

店から盗んでも良し、家庭菜園で育てている野菜を盗んでも良し。

まぁ、アリューシャは野菜嫌いだったのだが。

でも、アリューシャは盗むということはしなかった。

盗むのは良いけど、一度盗んで、それが近所にばれたら…あっという間に「あいつはコソ泥の糞ガキ」と噂になって、もう二度と、物乞いをしても何ももらえないだろう。

一度盗んだらずーっと盗み続けなければならない。そうすれば、アリューシャは盗人であると知れ渡って、この近辺にはいられなくなる。

その危険を犯すよりは、盗人ではなく、「可哀想な物乞いの孤児」である方が都合が良かった。

アリューシャが盗みをしなかったのは、それだけの理由だ。

盗まなくても、頑張れば生きていけた。ゴミを食べ、雑草を食べ、ゴキブリのように地を這い回りながら、しぶとく生きていた。

夏はともかく、冬に外で寝るのは辛かった。ゴミ捨て場から薄っぺらい毛布を拾ってきて、それを身体にかけていた。

生活に必要なものは、全部道端やゴミ捨て場で拾ってきていた。

当然身体に合うものなんてほとんどないから、着ていた服は擦りきれてぶかぶかで、靴は両方右足で、しかも大きかった。

勿論のことながら、アリューシャは学校にも行っていなかった。

だから読み書きも出来ないし、それどころか言葉も上手じゃなかった。

そもそもあの頃は、自分の名前さえなかった。

それなのに、生きていく術だけは知っていた。

一人で、誰にも頼らず生きていく方法を知っていた。

毎日腹減ったなぁと思いながら、都合の悪いことは綺麗に忘れつつ、一人で気ままに生きていた。

いつまでこんな生活が出来るのかは分からなかった。

でもアリューシャは馬鹿だから、難しいことなんて考えなかった。

生きていられるうちは、生きていれば良い。

何かあって死んだとしたら、それはそれで良い。

多分アリューシャが死んでも、誰も葬ってはくれない。

アリューシャの死体は、きっとカラスや野良犬がつついて、腐っていくのだろう。

別に良い。浮浪児ごときの末路は、大概がそんなものだ。

死ぬ覚悟くらい、いつでも出来ている。

…ただ、名前さえないまま死ぬというのは、残念なものがある。

なら格好良い名前を自分で考えようと、少し考えたりもしたのだが。

名前なんてついてても誰も呼んでくれないし、結局誰に教える訳でもないのだから、あっても意味がない。

名前というのは、それが誰かから呼んでもらって初めて意味を持つのだ。

アリューシャの傍には誰もいないし、これからも誰もいないのだから。

名前なんて、あっても仕方ない。

アリューシャは、そう諦めていた。