The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

おいおい、あんなキショイ昆虫に例えるんじゃねぇ、と思ったかもしれないが。

だって考えれば考えるほど、昔のアリューシャはゴキブリそっくりだった。

ちっこいし。すばしっこいし。

風呂入ってないから、黒くて不潔だし。

汚い、ごみごみしたところばっかに出没するし。

台所の隅に落としたようなものを、何でも拾って食うし。

人間様の居住地(帝都)に、自分も同居人ですと言わんばかりに我が物顔で住み着き、たまにひょっこりと現れるし。

夜行性だし。

おまけに生命力もなかなかのもの。殺虫剤撒かれたくらいじゃへこたれない。

むしろ危機を感じると、殺虫剤を噴かれたゴキブリのように、逃げ足が三倍速になる。

すげぇ。考えれば考えるほどアリューシャ、ゴキブリそっくりじゃねぇか。

唯一違う点は、ゴキブリと違ってアリューシャには羽がないことだ。

それ以外は、アリューシャはまるで、人の形をしたゴキブリそのものだった。

ゴキブリアリューシャは、人から隠れるようにして、路地裏で生きた。

アリューシャが屋根のあるところで寝るようになったのは、実は十年くらい前の話だ。

それまでアリューシャは、いつも星空に見守られながら寝ていた。

と、言うと聞こえは良いが、要するに路地裏のゴミ箱の影で、ゴミを毛布代わりに雑魚寝していただけだ。

アリューシャはいつも一人ぼっちだった。一人で生きていた。

だから、寝るのも一人きり。

寝てる間に他の悪党に狙われやしないかと、いつも心配だった。

今までにも何回か、そんなことがあった。

身ぐるみ剥がされるだけならまだまし。朝になったら路地裏に撲殺された子供の死体が…なんてことも、浮浪児には珍しくない。

いざとなったとき対抗出来るように、アリューシャは寝るときにいつも、枕元に鉄パイプを置いていた。

ちなみに、これが役に立ったことは一度もない。

ゴミに隠れるようにして寝ていたから、襲われかけたこともない。

まぁ、でもアリューシャはアホだから、襲われたことがあったのだとしても、次の日には忘れてしまっていた可能性もある。

目が覚めたら腕の骨折れてたことあるし、もしかしたらそういうときは、襲われたのかもしれないな。

だが、身ぐるみを剥がされようとも、アリューシャには財産なんて何にもなかった。

小銭は持っていたけど大した額じゃないし、食べ物も持っていないことの方が多かった。

基本的にその日暮らしだったアリューシャは、守るべきものも大切なものも何もなく、ただ息をする為に生きていた。

それが、アリューシャの生き方だった。