The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

食べ物のことばっかり考えている子供と聞いたら、一般人は何て思うだろう。

まぁなんて賤しい子供、と思うだろうな。

賤しくて結構。アリューシャにとっては物凄く大事なことだった。自分の生死が懸かっていたのだから。

アリューシャは大抵毎日腹を減らしていたし、腹が減ってるときは当然、食べ物のことを考えた。

しかし、何かを食べた後でも、次いつ食えるかなぁ、ってやっぱり食べ物の心配をしていた。

それを賤しいと思うならご勝手に。

飽食三昧になった今に至っても、アリューシャは飯を食う度に、次ちゃんと食べれるかな、と不意に心配になる。

そりゃね。あれだけ長いこと食べ物に困る生活をしていたら、誰だってそうなる。

アリューシャを賤しいだなんて思う奴は、今まで食べ物に困ったことのない幸せな人間なのだろう。

アリューシャの子供時代の食生活を知れば、少しは同情もしてもらえるんじゃないか。

さて、少し脱線してしまったけど、家族の話に戻ろうかな。

先程アリューシャは、乳幼児期をどう乗り越えたのか、覚えていないと言ったが。

けれども今こうして生きているということは、誰か面倒を見てくれる人がいたのだろう。

それが誰だったのか、何だったのかは知らん。

慈愛に満ちたマザー・テレサ二世だったのかもしれないし、良からぬことを考えて、家畜を育てるみたいにアリューシャを飼っていた人なのかもしれない。

あるいは、アリューシャは実はスーパー乳幼児で、誰の助けも借りずに生きていたのかもしれない。

それは覚えてもいないし確かめようもないし、知りたいとも思わないからどうでも良い。

とにかくアリューシャは、気がついたときには帝都外れの路地裏で、ゴミ箱を漁っていた。

それが、覚えている限り最初の、アリューシャの記憶だ。

あの頃アリューシャは何歳だったのだろう。多分、まだあんまり物心もついていなかったんじゃないだろうか。

三歳とか…四歳くらい?何にせよチビガキだったのは確かだ。

とにかくチビだったアリューシャは、さびれた街の片隅で、チビらしく、そして小賢しく生きていた。

その精神は、正しくゴキブリであった。