The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

アリューシャは母親を知らず、父親も知らず、兄弟がいるのかも知らない。

今更、調べようと思っても調べられない。

親がいないから、アリューシャには名前もなかった。

しかし、親がいないのなら今までどうやって生きてきたのか?という疑問が浮かび上がることだろう。

アリューシャもそれは大いに疑問だな。

ある程度大きくなれば話は別だが、赤ん坊の頃はさすがに、誰かに世話してもらわないと生きられなかったはずだ。

実のところ、アリューシャがどうやって乳幼児期を乗り越えたのか、自分でもよく分からないのだ。

乳児の頃は特に、記憶も残らないしね。

大体アリューシャは昔から馬鹿で、都合の悪いことや覚えていたくないことは、綺麗にするんと忘れてしまえるタチだった。

なんて便利で、アホな脳みそをしていることだろう。

でも、アリューシャは馬鹿だったから、今まで生きてこれたのだ。

アイ公やルル公みたいに賢くて真面目だったら、アリューシャはきっと耐えられなかった。

忘れなければ生きていけないことが、アリューシャの人生には色々あった。

色々あったはずなのだが、例によって忘れたもんだからよく覚えてない。

「忘れなきゃ生きていけないほど辛いことがあった」ってことだけは覚えている。

でもその内容がどんなものだったのかは、アホなアリューシャの脳みそが、記憶のゴミ箱にポイッと捨ててしまった。

一周回ってアリューシャの脳みそ、賢いんじゃね?

忘れてしまえばあとは、何事もなかったように生きていけば良い。

忘れたことを思い出す必要はないし、アリューシャの脳みそはアホなので、一度ゴミ箱に捨ててしまったものは、二度と取り出せない。

すげぇ便利。アリューシャの脳みそ、やっぱり賢いんじゃね?

だから、もしかしたらアリューシャは家族との思い出があったのかもしれないけど、それが辛いものだったから、アリューシャの脳みそがポイ捨てしてしまった可能性もある。

まぁ、それならそれで良いじゃないか。

いくら家族との思い出があっても、それが思い出したくないほど辛いものなんだったら、始めからない方が良い。

人間、覚えていたくないことを覚えているのはしんどいからな。

思い出す度に身が引きさかれるような思いをするよりかは、さっさと忘れてしまった方が良いのだ。

アリューシャにはそれが、家族との思い出だったというだけで。

まぁ、本当にアリューシャに家族がいたのかは疑問だが。

いてもいなくても、どっちでも良い。今すぐアリューシャそっくりのおばさんが来て、あなたのお母さんです!と言われたとしても、アリューシャは多分。

「あっそ、で?」と答えるだけだろう。

まぁそんなことは絶対有り得ないんだけどさ。

アリューシャには家族との思い出がないし、家族が欲しいと思ったこともない。

家族がいる奴を羨ましいな~とは思うけど、それは愛や温もりを得られるからではなくて、飯に困らないからである。

良いよね、親がいるガキは。飯の心配しなくて良いしさ。

飯の心配が要らないってのは、それだけで幸せなことだ。

あ、でもアイ公は家族がいたけど、貧民街の生まれだったから、それなりにひもじい思いはしていただろうなぁ。

アリューシャも同様。記憶にあるアリューシャの幼少期は、とにかく毎日腹減ったなぁ、って思っていたことばかり覚えている。

そう。アイ公が10年間家族のもとで、ひもじい思いをしながら生きていた頃。

アリューシャもまた、毎日食べ物のことばかり考えながら生きていたのである。