その後、彼女は自己紹介をしてくれた。
彼女の名前は、アシュトーリア・ヴァルレンシー。
『青薔薇連合会』という非合法組織の若き首領であるそうだ。
これを聞いたとき、私は思わず先程飲んだ紅茶を噴き出しそうになった。
『青薔薇連合会』と言えば、ルティス帝国屈指のマフィアじゃないか。
私でさえ名前を知っているくらいだ。
そこのボス。そんな人を、私は獲物にしようとしていたのか。
そりゃ返り討ちに遭うに決まってる。
私の生半可な観察眼じゃ見抜けない訳だ。
「…それで?あなたの名前は?」
「…」
マフィアのボスに名前を聞かれるなんて。
私は、この後殺されるのだろうか。
「…アイズ。アイズ・アズサルナ」
実は、私の昔の名前はこれなのである。
ルレイアやルルシーは、もとの名前とは結構がらりと変わっているけれど…私の名前は、もとの名前を踏襲している。
「アイズ。あなたご両親は?家族はいないの?」
「いません。一人も」
私の頭の中に、一番上の兄の顔が浮かんだ。
けれども、いくら生きていようとも…私が兄と会うことは有り得なかった。
「皆死んだの?」
「はい」
「病気?」
「いいえ。一家心中で」
「あら。それならあなたは何で生きてるの?」
一家心中なのに、私が生きてたんじゃ「一家」ではないじゃないかと。
彼女はそう言いたかったのだろう。
けれども、その答えは簡単だ。
「殺される前に殺したから、私だけ無事なんです」
「…へぇ…。つまりあなた…実の親を殺したのね?」
「はい」
声を震わせることもなく。罪悪感に苛まれた様子もなく。
ただ平然と、私は頷いてみせた。
これが普通の人だったら、実の親を手にかけたと聞かされたら、ぞっとするか、とんでもない子供だと怯えるだろう。
けれど、マフィアのボスともあろう彼女が、そんなことで怯えるはずがなかった。
「そう…。そしてそれから、ああやって通り魔殺人紛いのことをして生きてきた訳ね」
「はい」
「随分と肝の据わった子だと思ったら、そういうこと…可哀想にねぇ」
アシュトーリアさんはそっと私に手を伸ばした。
首を掴まれて殺されるのかと思った。
でも、そうではなかった。
彼女の手は、私の頭の上にあった。
そして、ぼさぼさで、汚い私の髪を…幼い子供にでもするみたいに、優しく撫でた。
彼女が何をしているのか分からなくて、私は酷く困惑していた。
そんなこと、今まで一番上の兄以外の人にされたことはなかったから。
「辛かったでしょう?家族を亡くして、一人で…」
「…」
辛い?私には、彼女が何を言っているのか分からなかった。
辛いって、何だ。
「…生きる為に精一杯なのは、生まれたときからずっとですから」
両親がいた頃だって、私は毎日生きるのに必死だった。
今と何も変わらない。生きる難易度はいつだって高いままで、私にとってはそれが当たり前だから、そのハードルを高いなんて思わない。
生きていたいなら、なんとしてもそれを乗り越えるしかない。
だから乗り越えてきた。それだけの話だ。
「…私を殺すんですか」
自分が見逃してもらえるのか、それともやっぱり殺されるのか。
はっきりしないのが嫌で、私はそう尋ねた。
見逃してもらえるのなら御の字。殺されるのなら…私の運命は、ここまでだったということだ。
「生きていたいの?あなたが生きていくのは大変なことなんでしょう?」
「大変ですね。でも…出来れば、生きていたいです」
「どうして?死んだ方が楽でしょう?もう苦しいことなんてないわよ」
「…」
死んだ方が楽?
確かにそうなのかもしれない。楽か、苦しいかで考えれば。
でも、私はそんな難しいことは考えない。
生まれたときからずっと、そんなことは考えてこなかった。
彼女の名前は、アシュトーリア・ヴァルレンシー。
『青薔薇連合会』という非合法組織の若き首領であるそうだ。
これを聞いたとき、私は思わず先程飲んだ紅茶を噴き出しそうになった。
『青薔薇連合会』と言えば、ルティス帝国屈指のマフィアじゃないか。
私でさえ名前を知っているくらいだ。
そこのボス。そんな人を、私は獲物にしようとしていたのか。
そりゃ返り討ちに遭うに決まってる。
私の生半可な観察眼じゃ見抜けない訳だ。
「…それで?あなたの名前は?」
「…」
マフィアのボスに名前を聞かれるなんて。
私は、この後殺されるのだろうか。
「…アイズ。アイズ・アズサルナ」
実は、私の昔の名前はこれなのである。
ルレイアやルルシーは、もとの名前とは結構がらりと変わっているけれど…私の名前は、もとの名前を踏襲している。
「アイズ。あなたご両親は?家族はいないの?」
「いません。一人も」
私の頭の中に、一番上の兄の顔が浮かんだ。
けれども、いくら生きていようとも…私が兄と会うことは有り得なかった。
「皆死んだの?」
「はい」
「病気?」
「いいえ。一家心中で」
「あら。それならあなたは何で生きてるの?」
一家心中なのに、私が生きてたんじゃ「一家」ではないじゃないかと。
彼女はそう言いたかったのだろう。
けれども、その答えは簡単だ。
「殺される前に殺したから、私だけ無事なんです」
「…へぇ…。つまりあなた…実の親を殺したのね?」
「はい」
声を震わせることもなく。罪悪感に苛まれた様子もなく。
ただ平然と、私は頷いてみせた。
これが普通の人だったら、実の親を手にかけたと聞かされたら、ぞっとするか、とんでもない子供だと怯えるだろう。
けれど、マフィアのボスともあろう彼女が、そんなことで怯えるはずがなかった。
「そう…。そしてそれから、ああやって通り魔殺人紛いのことをして生きてきた訳ね」
「はい」
「随分と肝の据わった子だと思ったら、そういうこと…可哀想にねぇ」
アシュトーリアさんはそっと私に手を伸ばした。
首を掴まれて殺されるのかと思った。
でも、そうではなかった。
彼女の手は、私の頭の上にあった。
そして、ぼさぼさで、汚い私の髪を…幼い子供にでもするみたいに、優しく撫でた。
彼女が何をしているのか分からなくて、私は酷く困惑していた。
そんなこと、今まで一番上の兄以外の人にされたことはなかったから。
「辛かったでしょう?家族を亡くして、一人で…」
「…」
辛い?私には、彼女が何を言っているのか分からなかった。
辛いって、何だ。
「…生きる為に精一杯なのは、生まれたときからずっとですから」
両親がいた頃だって、私は毎日生きるのに必死だった。
今と何も変わらない。生きる難易度はいつだって高いままで、私にとってはそれが当たり前だから、そのハードルを高いなんて思わない。
生きていたいなら、なんとしてもそれを乗り越えるしかない。
だから乗り越えてきた。それだけの話だ。
「…私を殺すんですか」
自分が見逃してもらえるのか、それともやっぱり殺されるのか。
はっきりしないのが嫌で、私はそう尋ねた。
見逃してもらえるのなら御の字。殺されるのなら…私の運命は、ここまでだったということだ。
「生きていたいの?あなたが生きていくのは大変なことなんでしょう?」
「大変ですね。でも…出来れば、生きていたいです」
「どうして?死んだ方が楽でしょう?もう苦しいことなんてないわよ」
「…」
死んだ方が楽?
確かにそうなのかもしれない。楽か、苦しいかで考えれば。
でも、私はそんな難しいことは考えない。
生まれたときからずっと、そんなことは考えてこなかった。


