The previous night of the world revolution2〜A.D.〜

アシュトーリアさんと初めて会った日。

あろうことか、私は彼女を殺そうとしていた。

そう。最初彼女は、私の獲物だったのである。

その夜、私はいつものように路地裏に潜んで、無防備な獲物が通り掛かるのを待っていた。

路上で生活するようになって、私の他人を見る観察眼は、随分と発達していた。

一見しただけで、この人は無害だなとか、この人は相手にしたらヤバいとか、ある程度察知出来るようになっていた。

そうやって私はターゲットを選んでいた。

どんなに細身で軽装で、軟弱そうに見える人でも、この人は相手にすると不味いな、と思ったときには手を出さなかった。

逆に、どんなに俊敏そうで、屈強そうに見えても、この人は勝てると思ったら、容赦なく襲った。

そしてそういうときは、いつも上手く行った。

自分の観察眼には自信があった。文字は読めないし計算も出来ないけど、この観察眼についてだけ言えば、誰にも負けないつもりだった。

その夜暗がりを軽やかに歩いてきたのは、大丈夫な方の人に見えた。

今でも、見た目だけ見たら、アシュトーリアさんがマフィアのボスだということは信じられない。

今でさえそうなのだから、当時の私に、そんなことが分かるはずがなかった。

絶対に手を出してはいけない人に、手を出してしまった。

愚かにも、私はいつものようにナイフを忍ばせて、通り過ぎようとする彼女の腕を掴んだ。

驚いたような顔をしたアシュトーリアさんの身体に、ナイフを突き刺そうとした。

その動きに、少しの躊躇いもなかった。

しかし、私のナイフが彼女の身体に刺さることはなかった。

気がついたら、私なんかよりずっと素早い動きで、ナイフを握る私の手ががっちりと掴まれていた。

奇襲した私の方が驚くなんて、おかしな話だ。

アシュトーリアさんは素早く私のナイフを奪い取り、地面に捨てた。

同時に、片手で私の腕を掴んだまま捻り上げ、もう片方の手で拳銃を抜き、私のこめかみに銃口を向けた。

こうされると、私に為す術はない。

「全くもう…。手癖の悪い子ね」

およそ10年前、初めて出会ったとき、彼女が私に言った第一声がこれだった。

呆れたような、それでいて優雅で楽しげな声音だったことを覚えている。