三日くらい、何も口にしていなかった。
外に出る元気もなく、家の中でぼーっとしていた。
このまま死ぬのかなぁ、と朧気に考えていたのを覚えている。
その日、私の一つ上の兄が、病気にかかっていることが判明した。
兄もまた、死にたくないと泣きながら訴えていた。
両親は冷めた目で兄を見つめ、何も言わずにふらっと出ていった。
何処に行っていたのか、何をしていたのかは知らない。
けれども、夜になって帰ってきた両親は、私の知る二人ではなかった。
…食器棚が崩れるような音がした。
その音で、あの夜、私は目を覚ました。
あのとき目を覚まさなければ、私は今頃この世にはいなかっただろう。
「…?」
朝から何処かに行方を眩ませていた両親が帰ってきたのか、と思った。
病気の兄を置き去りにして、何処に行っていたのか。
その時点で私は、酷く嫌な予感がしていた。何かが違う、と思った。
何か良くないこと、悪いことが起こる。直感で、私はそれを感じ取っていた。
そして、またしても見事に的中するのだが。
隣の部屋から何やら物音がした。
聞いたこともないくらい、生々しい音だった。
隣の部屋では、妹や姉が寝ている。何かあったのなら、姉妹達が声をあげるはず。
それなのに、誰の声もしなかった。
何事が起きているのか、確かめたいのに、確かめるのが怖くて身体が動かなかった。
やがて、みしみしと床を踏み締める足音が、こちらに近づいてきた。
現れたのは、母親だった。
返り血がべったりとついた母の手には、物置に眠っていた古い鎌があった。
あ、姉妹達は殺されたんだ。私はすぐにそれを察知した。
何でそんなことを、と叫ぶより先に、私は自分の身を守ることを考えた。
これは逃げなくては不味い、と思った。
自分の身を守る為に、私は咄嗟に目を閉じた。要するに寝た振りをかました訳だ。
そしてこの作戦は上手く行った。母は私が寝ているものと思い、部屋の入り口に寝ていた者順に…まず弟に鎌を振り下ろした。
ぐちゅ、と鎌が肉に食い込む音がはっきりと耳に残っている。
母は次々と鎌を振り下ろした。順番に、無慈悲に。
私の頭には、自分が助かることしかなかった。今すぐ起きて、大声を出して兄弟達を助けようなんてことは考えもしなかった。
何処までも冷静で、そして無慈悲。思えば私の血はあの頃から、マフィアのそれだったのかもしれない。
そして、生きている兄弟は私一人だけになった。
母が最後に残った我が子に鎌を振り上げた瞬間、私は毛布代わりのボロ布を払い除けた。
かわしたつもりだったのだが、切れ味の悪い鎌が私の左腕を切り裂いた。
傷痕は、このときについたものである。
痛みはあったが、腕のことに構ってはいられなかった。
素早く立ち上がり、母に向かって思いっきり体当たりを食らわせた。
餓えて力もなかったのに、よくあんなに機敏に身体が動いたものだ。
火事場の馬鹿力という奴だ。
驚いて尻餅をついた母の手から、鎌が溢れ落ちた。
これを見逃すという手段はなかった。
ぼたぼたと血を溢れさせる左手で鎌を拾い上げた。
形勢逆転、だ。
容赦なんてしなかった。先に殺そうとしたのは向こうなのだから、私が躊躇う必要はなかった。
母は何かを叫んだが、私は聞いていなかった。
無慈悲に振り下ろした鎌が、母の胸に深々と突き刺さった。
あのときの、肉を裂く感触が…今でも、手に残っている。
外に出る元気もなく、家の中でぼーっとしていた。
このまま死ぬのかなぁ、と朧気に考えていたのを覚えている。
その日、私の一つ上の兄が、病気にかかっていることが判明した。
兄もまた、死にたくないと泣きながら訴えていた。
両親は冷めた目で兄を見つめ、何も言わずにふらっと出ていった。
何処に行っていたのか、何をしていたのかは知らない。
けれども、夜になって帰ってきた両親は、私の知る二人ではなかった。
…食器棚が崩れるような音がした。
その音で、あの夜、私は目を覚ました。
あのとき目を覚まさなければ、私は今頃この世にはいなかっただろう。
「…?」
朝から何処かに行方を眩ませていた両親が帰ってきたのか、と思った。
病気の兄を置き去りにして、何処に行っていたのか。
その時点で私は、酷く嫌な予感がしていた。何かが違う、と思った。
何か良くないこと、悪いことが起こる。直感で、私はそれを感じ取っていた。
そして、またしても見事に的中するのだが。
隣の部屋から何やら物音がした。
聞いたこともないくらい、生々しい音だった。
隣の部屋では、妹や姉が寝ている。何かあったのなら、姉妹達が声をあげるはず。
それなのに、誰の声もしなかった。
何事が起きているのか、確かめたいのに、確かめるのが怖くて身体が動かなかった。
やがて、みしみしと床を踏み締める足音が、こちらに近づいてきた。
現れたのは、母親だった。
返り血がべったりとついた母の手には、物置に眠っていた古い鎌があった。
あ、姉妹達は殺されたんだ。私はすぐにそれを察知した。
何でそんなことを、と叫ぶより先に、私は自分の身を守ることを考えた。
これは逃げなくては不味い、と思った。
自分の身を守る為に、私は咄嗟に目を閉じた。要するに寝た振りをかました訳だ。
そしてこの作戦は上手く行った。母は私が寝ているものと思い、部屋の入り口に寝ていた者順に…まず弟に鎌を振り下ろした。
ぐちゅ、と鎌が肉に食い込む音がはっきりと耳に残っている。
母は次々と鎌を振り下ろした。順番に、無慈悲に。
私の頭には、自分が助かることしかなかった。今すぐ起きて、大声を出して兄弟達を助けようなんてことは考えもしなかった。
何処までも冷静で、そして無慈悲。思えば私の血はあの頃から、マフィアのそれだったのかもしれない。
そして、生きている兄弟は私一人だけになった。
母が最後に残った我が子に鎌を振り上げた瞬間、私は毛布代わりのボロ布を払い除けた。
かわしたつもりだったのだが、切れ味の悪い鎌が私の左腕を切り裂いた。
傷痕は、このときについたものである。
痛みはあったが、腕のことに構ってはいられなかった。
素早く立ち上がり、母に向かって思いっきり体当たりを食らわせた。
餓えて力もなかったのに、よくあんなに機敏に身体が動いたものだ。
火事場の馬鹿力という奴だ。
驚いて尻餅をついた母の手から、鎌が溢れ落ちた。
これを見逃すという手段はなかった。
ぼたぼたと血を溢れさせる左手で鎌を拾い上げた。
形勢逆転、だ。
容赦なんてしなかった。先に殺そうとしたのは向こうなのだから、私が躊躇う必要はなかった。
母は何かを叫んだが、私は聞いていなかった。
無慈悲に振り下ろした鎌が、母の胸に深々と突き刺さった。
あのときの、肉を裂く感触が…今でも、手に残っている。


