その顔を見ただけで、彼女が昨日、あの後相当絞られたらしいことが分かった。

これはこれは。お気の毒様。

是非とも優しくしてあげなくては。何せ俺は、彼女の恋人だからな。

「おはようございます、ハバナさん」

俺は、百点満点をもらえそうなくらい、にこやかに挨拶したのだが。

「…」

ハーリアは無言であった。死んだ魚の目。

おいこの女。演技下手なことは知っているが、恋人の振りくらいしろ。

契約違反だ。

「ハバナ大丈夫?どうしたの?」

ミューリアは、心配そうにハーリアの顔を覗き込んだ。

彼氏が出来た翌日に、死んだ目をしているなんて普通では有り得ない。

このままでは、昨日何かあったのではないかと疑われてしまう。

それだけは避けなければならない。ルナニアとしてのポジションを守る為には。

俺は一瞬だけ、ルレイアとしての鋭い眼光でハーリアを睨んだ。

彼女はその一瞬を見逃さなかった。

肉食獣に睨まれた草食動物のように、ハーリアは怯えたような顔をした。

そして、自分のやるべきことを理解した。

「…ごめんなさい。その…皆にどんな顔をしたら良いのか、分からなくて」

「えぇ?何で?」

「だって…こんな、毎日顔を合わせてるクラスメイト同士で…」

「やだ、ハバナったらそんなこと気にしなくても良いのに」

本当は、ただ怯えていただけなのだが。

ハーリアは、照れ隠しの為に険しい顔をしていたのだとミューリア達に誤解させるつもりらしい。

全く手のかかる女だ。

「やめてくださいよぅ…。俺まで恥ずかしくなってくるじゃないですか」

「ひゅーひゅー!新婚夫婦!ウブだねぇ」

馬鹿なアシベルが馬鹿みたいに茶化してくれたので、その場は何とか、笑って誤魔化しきった。

馬鹿は馬鹿なりに、役に立つときもあるもんだな。

それはさておき、この後もずっとこのままでは困る。

ハーリアと、話をしておかなくては。