まさかこの面々を、一人で相手にする日が来ようとは。

帝国騎士団の隊長達、10人に見つめられ、俺はそっと息を呑んだ。

…ルレイアはよくもまぁ、このそうそうたる顔触れに睨まれても平然としているものだ。

ルレイアの為でもなければ、泣いて逃げ出していたかもしれない。

「…今日は一人なのか」

オルタンスは何気なく言ったつもりなのだろうが、それでさえ軽いジャブを打たれた気分だ。

「あぁ、一人だ」

「相方はどうした?」

「出張中だ」

俺の相方、とは言うまでもなくルレイアのことだ。

「そうか…。それで、今日は我々に何の用だ?」

「…」

俺は心の中で、そっと息を吐いた。

「『シュレディンガーの猫』への対策として、ルレイアが考えた作戦に協力してもらいたい」

「…まず、話を聞こう」

あぁ。俺もそのつもりだ。

ここで上手くやらなければ、ルレイアの努力が無駄になる。

アイズでもアシュトーリアさんでもない。俺がやるのだ。

ルレイアの相棒である、俺が。

「『青薔薇連合会』は『シュレディンガーの猫』に協力し、帝国騎士団と敵対する」

「…そうか」

帝国騎士団との同盟に亀裂を入れる一言なのに、オルタンスは表情を変えなかった。

他の隊長達は、露骨に表情を険しくした。

「…同盟を破棄すると?」

「そのつもりだ」

ルレイアが、ハバナとかいう『シュレディンガーの猫』の構成員に交渉を持ちかけているはずだ。

マフィア同士で、協力して帝国騎士団を叩く、と。

「それを何故、我々に宣言する?黙って裏切った方が良いだろう」

「ルレイアが、『シュレディンガーの猫』の構成員に接触した。その構成員に『青薔薇連合会』との共闘を申し出た。『猫』がそれを承諾するかは分からないが…」

「承諾したら我々を裏切ると?」

「少なくとも、その振りをする」

「…いまいち話が見えないが…。要するに、『シュレディンガーの猫』を嵌めるということか?」

さすがに、オルタンスは察しが良い。

ルレイアが考えたのは、つまり…オルタンスの言う通り。

『シュレディンガーの猫』を、嵌めるのだ。