カーテンの外、静かに立つジョセフと美愛。


テントの中からは、エルガーの『愛の挨拶』が、優しく流れている。

 
ゆっくりと、テントの入口のカーテンが左右に開かれていく。

 
そこに現れたのは、太陽の光に照らされた、美しい花嫁姿の美愛だった。

 
その姿を目にした瞬間、雅は息を呑んだ。

 
(あぁ……、なんて美しいのだろう)

 
陽光を纏って立つ彼女の姿は、まるで時が止まったかのようだった。

 
(あの日と何も変わっていない。初めて出会ったあの時、彼女は天使のようで、妖精のようで──けれど今はもう……)

 
(むしろ、女神だ)

 
静けさの中に、確かな芯を宿したまなざし。
大人になった彼女は、外見も内面も出会ったあの瞬間から、ずっと、変わらずに育ってきた。

 
(彼女の美しさは、あの時のまま。いや、それ以上に、深く、静かに、輝きを増しているんだ)

 
開かれたカーテンを合図に、テント内の出席者たちは、自然と立ち上がる。


静寂の中、ふわりと風が吹き抜けた。

 



入場の直前。


テントの外で、美愛はうつむいていた。そんな彼女に、父・ジョセフは優しく声をかける。

 
「君が恥ずかしがり屋だということは、分かっているよ。でも今日はここにいる皆さんに感謝の気持ちを込めて、顔を上げて、笑顔で、私と歩こう」

 
その一言に、ハッとする美愛。

 
(……、そうだよね。私が“家族だけのささやかな式”を望んだのに。みんな、こうして温かくお祝いしてくれているのに……。うつむいたままじゃ、失礼だよね)

 
そっと顔を上げて、隣に立つ父親を見る。ジョセフは笑顔でうなずき、手を差し出した。

 
「さあ、行こう」

 
そして、ゆっくりと歩き出す2人。


まっすぐに伸びたバージンロードの先に、彼女の未来が待っていた。

 
それは、大切な人と共に歩んでいく未来。光と祝福に包まれた、新たな一歩だった。