控室では、すでに全員の支度が整っていた。
俺たち5家族は、係員の案内に従って中庭のテントへと向かう。


人目を避けるために利用したのは、従業員専用の通路。これも仁の細やかな気遣いによるものだった。ありがたい。

 



初めて足を踏み入れるテントの中。


天井から四方の壁を流れるストリングライトの柔らかな灯りと、大きな窓から差し込む自然光が重なり、室内は明るく、温かい雰囲気に包まれていた。

 
白いテーブルクロスがかけられた円卓の中央には、バラと白い花を組み合わせた、美愛ちゃんらしい優しい色合いのブーケが飾られている。

 
今回は、出席者が自由に動けるよう、あえて席次表を設けていない。決まっているのは、俺と美愛ちゃん、新郎新婦の席だけだ。

 
その長方形のテーブルには、大人用の椅子の間に小さなベビーチェアが置かれていた。俺は持参した紙袋から、プードルのBon Bonを取り出して、そっと座らせる。Bon Bonは、俺と美愛ちゃんにとって大切な“家族”の一員だから。

 
テントの入り口からは、まっすぐにバージンロードが奥へと続いており、その先に、俺たちのテーブルがある。

 
後ほど、ここで誓いの言葉を読み上げる。美愛ちゃんは、ジョセフさんと一緒にこの道を歩き、俺の元へと来るのだ。

 
その時のことを想像するだけで、胸が少し熱くなる。

 
そんな中、テントの入り口から、道上教授夫妻が姿を現した。俺はすぐに挨拶へと向かう。

 
「雅君、おめでとう。美愛が秘書として頑張っているようで、私も紹介した甲斐があったわ。でも、本当に運命ね。まさか、あなたが美愛が言っていた“王子様”だったなんて!」

 
「先生のおかげで、彼女と再会することができました。本当にありがとうございます」

 
深く頭を下げて感謝を伝える。


もしあの時、先生の紹介がなければ、今のこの瞬間はなかったかもしれない。

 
そのとき、係員が花村家の到着を告げに来た。

 
簡単な司会を引き受けてくれた京兄と悠士兄の呼びかけで、皆それぞれの席につく。

 
いよいよ始まる。俺と美愛ちゃんの、結婚式が。

 
テント内に、やさしい音楽が流れ始める。そして、人々の視線は一斉にテントの入り口へと集まった。

 
俺は、あのカーテンが開かれるその瞬間を、静かに、そして確かな想いと共に待っていた。