続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜       花村三姉妹  美愛と雅の物語

久美子さんと圭衣ちゃんの2人が喫茶室を出たのを見届けたあと、ジョセフさんがゆっくりと席を立ち、まっすぐ俺を見つめてきた。

 
「式の前に、お願いがあるんだ」

 
その声は穏やかだったけれど、言葉の奥には、父親としての強い決意が込められていた。

 
「君たちの家族と接してみて、みんなが愛情に満ちた温かい家庭で育ってきたことが、よくわかった。私は君たちを信頼している。でも、これから話すことは──相手が誰であろうと、必ず伝えるつもりだったんだ」

 
ひと呼吸おいて、ジョセフさんは続ける。

 

「ふぅ……、雅君。美愛を大切に思い、愛してくれて、本当にありがとう。
でも、もしこの先、君たちがケンカをすることがあったとしても……。どうか、美愛に手をあげたり、傷つけたりしないでほしい」

 
その声が、少し震えていた。

 
「もし、どうしても気持ちが抑えきれなくなって、そんな状況になりそうなときは……、
理由なんて聞かない。だから──どうか、私たちにあの子を返してくれ。これは、君だけじゃない。大和君、仁君にも同じようにお願いしている。
……、どうか、私たちの娘たちを、傷つけないでほしい」

 
深く頭を下げるジョセフさん。顔を上げたとき、その目が赤くなっていたのは、言うまでもない。

 
俺は知っている。


ジョセフさんは、俺たちが美愛ちゃんたちを傷つけるような人間じゃないと、ちゃんと理解してくれている。


でも、それでもなお父親として、愛する娘を手放す日だからこそ、言葉にして伝えておきたかったのだ。

 
その気持ちが痛いほど伝わってきた。

 
本当に、愛娘たちを溺愛している父親なんだな。

 

「……、約束します、ジョセフさん」

 
俺はまっすぐ彼の目を見て、はっきりと答えた。

 
「でも、俺には自信があります。美愛ちゃんを、一生大切にできるって。むしろ俺の方が、美愛ちゃんに捨てられないか、そっちが心配なんですよ」

 
そう伝えると、ジョセフさんはふっと笑みを浮かべた。

 
「……、美愛は、ずっと君のことを思ってきた。それは、これからも変わらないだろう。
ありがとう、雅君」

 
そして、俺たちはしっかりと、固い握手を交わした。

 



さあ、そろそろ式の最終準備に戻ろう。

 
それぞれ控え室へと向かう足取りは、どこか少し──あたたかかった。