式の1時間半前。


私はホテル9(クー)の新婦控え室に入った。


父さまは黒のタキシードに着替えると、時間を潰すためにホテル内の喫茶室へと出かけてしまった。

 
母さまと圭衣ちゃんも、さっさとヘアメイクを終えると、そのままどこかへ行ってしまい、部屋には、ようちゃんと私だけが残された。

 
……、なんだか、みんな変だ。

 
朝から感じていた違和感が、どうしても気になって、思い切ってようちゃんに尋ねてみる。

 
「ねぇ、ようちゃん……、なんだか今日、みんな様子が変じゃない?母さまも圭衣ちゃんも、全然お喋りしないし、すぐどこかに行っちゃうし……。もしかして、この結婚に反対してるのかな……?」

 
言いながら、不安がこみ上げてきて、最後は語尾が小さくなってしまった。

 
すると、ようちゃんは即座に首を振って否定してくれる。

 
「えっ、そんなわけないじゃん! もし本当に反対してたら、同居の時点で母さまが許してないよ? あんた、覚えてるでしょ? 雅さんのお泊まりセット、実家にちゃんと置いてあったじゃん? 誰も反対してないよ。むしろ、あの“王子様”と美愛が結婚すること、みんなすっごく喜んでるんだから」

 
そう言いながら、ようちゃんは少しだけ目を細めて続ける。

 
「……、まあね、父さまはちょっと複雑な気持ちなんだよ。誰が相手でも、娘を嫁に出すのって、きっと寂しいんだよ。でも、心配しなくて大丈夫。みんな、ちゃんと祝福してるから」

 
その言葉に、胸がじんわり温かくなった。

 
けれど、ようちゃんはすぐに話題を切り替える。

 
「それより、あんた今朝フルーツしか食べてないんでしょ?絶対に何かお腹に入れた方がいいよ。式の途中で倒れたら困るから。ちょっと待ってて、簡単に食べられるもの買ってくる!」

 
そう言って、チェアーマッサージを終えたようちゃんは、勢いよく控え室を飛び出していった。

 
私はその間に、メイクを始めることにした。

 
少しして、クッキー缶を手にしたようちゃんが戻ってくる。


一緒にいたメイクさんとヘアスタイリストのお姉さんたちも手を止めて、4人でクッキーをつまむことに。

 
緊張していたはずなのに、気づけばペロリと平らげてしまっていた。クッキー缶ごと買ってきてくれたようちゃんに、心から感謝。

 
お腹も満たされ、メイクもヘアセットも無事に終わり。


式の30分前には、すべての準備が整った。