やっぱり緊張していたのか、昨夜はあまりよく眠れなかった。それでも朝はちゃんと訪れ、私はそっとカーテンを開ける。

 
青い空が広がっていた。

 
よかった。晴れてくれた……!

 
その瞬間、なぜか小学生の頃の“遠足の朝”を思い出してしまい、思わず笑ってしまった。

 



部屋を見渡す。


日本に帰国してから約5年間、この部屋で過ごしてきた。

 
昨年、大学を卒業したあと、一人暮らしを始めるために実家を出た。


それからは、自然と自分が帰る場所は、もうこの家ではなく、雅さんのマンションだと感じるようになっていた。

 
もちろん、実家は何も変わっていない。両親はいつも温かく迎えてくれるし、ここに帰るたびに安心できる。


けれど、今の私にはここに“生活の匂い”がしない。

 
たった1年で、こんなにも多くのことが変わるなんて……。

 



朝食は、どうにも喉を通らず、紅茶とフルーツを少しだけ口にした。どうやら、私だけでなく、家族もあまり食欲がないようだ。

 



式場のホテル9(クー)へは、父さまの運転でみんな一緒に向かうことになっている。

 
いつもなら、車の中では話が止まらない我が家なのに。今日は、ようちゃん以外、誰ひとりとして口を開かない。

 
寡黙な父さまと、物静かな葉子ちゃんはいつも通りだ。けれど、ふだんは機関銃のように喋りまくる母さまと圭衣ちゃんが、今日はまるで別人のように静かだった。

 
嬉しいはずの結婚式なのに……。


なぜか、朝から車内はしんと静まり返っている。

 
もしかして、みんなも緊張してるのかな?