続お菓子の国の王子様〜結婚に向けて〜       花村三姉妹  美愛と雅の物語

雅さんは、先ほどの女性店員さんに、私を丁寧に紹介してくれた。

 
「鈴木さん、こちらが私の婚約者であり、秘書でもある花村美愛さん。美愛ちゃん、鈴木さんは副店長で、彼女のご主人がチーフベーカーの鈴木さんだよ」

 
あれ?
副店長って、たしか別の女性だったような……?

 
「まあ、婚約者さんでしたのですね」

「花村です。よろしくお願いします」

 
軽くお辞儀をして挨拶を交わしたその直後、雅さんがジッと私を見つめたまま、そっと右手を伸ばしてきた。指先が、私の頬を優しくなぞる。

 
「どうしたの、美愛ちゃん? ……、泣いてたの、さっき?」

 
心配そうにのぞき込むその瞳に、胸がじんわりと温かくなる。ちょっと照れくさいけれど、私は素直に今の気持ちを伝えた。

 
「あっ、これ……? なんだかね、いろいろと思い出しちゃって。雅さんと初めて出会ったときから、今までのこととか……。それで、この写真を見たら……」

 
私は、メニュー表示の横に飾られていたモノクロ写真を指差した。

 
「秘密にしててごめんね。これ、飾るの……、嫌だったかな? 一応、花村家のみんなには了解をもらったんだけど、美愛ちゃんにもちゃんと聞くべきだったね」

 

「あ、あのね……、ちょっと恥ずかしいけど……、でも、これが私たちの“始まり”で、Bon Bonにつながってるから……。嬉しい気持ちもあるんだ」

 
照れくささと、あたたかさが入り混じった想い。それを受け止めるように、雅さんは微笑んで、私の頭をそっと撫でてくれた。

 
その後、奥からジェネラルマネージャーとして働いている元・総務部長の杉山さんが挨拶に来てくださり、私たちはカフェBon Bonを後にした。





ホテルへ向かう車の中、私はふと気になっていたことを雅さんに尋ねた。

 
「ねえ、さっきの副店長さんだけど……。前に会った方と違っていたような……?」

「うん。実は開店の2日前に、前任の副店長は解雇になったんだ。契約違反があってね」

 
詳しくは語られなかったけれど、私には何となく想像がついた。だってその人、いつも私を睨んでいたから。