「お客様、大丈夫ですか?」
突然かけられた声に、私は一瞬きょとんとした。オーダーカウンターの女性店員さんが、心配そうにこちらを見ている。
「……、え?」
私の反応が鈍いせいか、彼女はカウンターから出てきて、手にしていた紙ナプキンでそっと私の頬を押さえてくれた。
あれ? 涙……?
「お客様、体調が優れないようでしたら、よろしければ少しお座りになって……」
「あっ……、大丈夫です。ごめんなさい。あの、写真を見ていたら……、涙が出てきちゃって」
慌ててそう伝えると、女性店員さんはホッとしたように笑みを浮かべて頷いた。
「安心しました。あの写真……、実は、本社のロゴマークの元になったものなんです。
Bon Bonの社長と、そのご婚約者様の……、とても素敵なお話なんですよ」
そう言って彼女は、小声で付け加えた。
「特に女性のお客様たちに人気で……、“憧れのラブストーリー”って、よく言われてるんです。社長が婚約者様をとても大切にしているのが、伝わってきますよね」
少し照れたように微笑むと、彼女はカウンターへと戻っていった。
そういえば、店長さんや裏方のベーカーさんたちとは何度か顔を合わせているけれど、店頭で接客しているスタッフの方とは、まだちゃんと話したことがなかった。
そんなことを考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。
着信は雅さんから。
『もうすぐ終わるよ』
短いメッセージに、私もすぐ返信を送る。
『今、お店にいるよ』
ほどなくして、店内奥の事務所の扉が開いた。
「美愛ちゃん!」
愛する人の声が、真っ直ぐに私を呼ぶ。
彼は迷いなくこちらへ歩いてきて、
そのまま人前にもかかわらず、私をぎゅっと抱きしめた。
そして、私の頭にやわらかくキスを落とす。
「み、雅さん……っ。ここ、お店……、まだお客様が……」
小さな声で訴えたけれど、却下された。
カウンターの奥やテーブル席から、たくさんの視線を感じる。
恥ずかしさで頬が熱くなるけれど、雅さんの香りに包まれていると、不思議と心が落ち着いていく。
きっと、彼は知っているのだろう。私が今、どんなふうに感じているかを。
……、もしくは、まったく気づかないまま、ただ会えた嬉しさだけで動いているのかもしれない。
どちらにしても雅さんは、いつも通りの雅さんだった。
「会いたかったよ。実家のみんなは元気にしてる?」
「う、うん。みんな元気だよ。“開店おめでとう”って、伝えてくれたよ」
ようやく彼の腕が少しだけ緩んだ。
でも、その左手は私の腰に回されたまま。
これ以上は、ほんとに人目が気になるんだけど……。
そんなふうに内心ドキドキしていると、ちょうどカフェの外へ出てきた若い女性グループが、こちらを見てキャーッと歓声を上げた。
「きゃーっ! え、まさか……、本物!?」
「ヤバいヤバい、やっぱりあの2人だよね!」
えっ、なになに? どうして拍手してるの……?!
戸惑っている私の横で、雅さんは冷静にその場をおさめた。
グループの1人がスマホをこちらに向けた瞬間、彼はいつもの穏やかな笑顔で、けれどきっぱりと告げる。
「お客様、恐れ入ります。私たちの写真や動画の撮影はご遠慮いただいております。ご理解とご協力、ありがとうございます」
あ、出た。雅さんの“営業スマイル”。
これにやられない人、いるのかな……?
さすがというか、やっぱりというか。
グループの子たちもすぐに納得してスマホを下げてくれた。
「すみませーん! でも、お幸せそうで素敵です!」
「ありがとうございます。ご来店、ありがとうございました」
そう言って頭を下げる雅さんの姿は、どこまでもスマートだった。
私の婚約者って、ほんとにすごい人だ
なぁ……。
恥ずかしさと誇らしさで、胸がぽわんとあたたかくなっていく。
突然かけられた声に、私は一瞬きょとんとした。オーダーカウンターの女性店員さんが、心配そうにこちらを見ている。
「……、え?」
私の反応が鈍いせいか、彼女はカウンターから出てきて、手にしていた紙ナプキンでそっと私の頬を押さえてくれた。
あれ? 涙……?
「お客様、体調が優れないようでしたら、よろしければ少しお座りになって……」
「あっ……、大丈夫です。ごめんなさい。あの、写真を見ていたら……、涙が出てきちゃって」
慌ててそう伝えると、女性店員さんはホッとしたように笑みを浮かべて頷いた。
「安心しました。あの写真……、実は、本社のロゴマークの元になったものなんです。
Bon Bonの社長と、そのご婚約者様の……、とても素敵なお話なんですよ」
そう言って彼女は、小声で付け加えた。
「特に女性のお客様たちに人気で……、“憧れのラブストーリー”って、よく言われてるんです。社長が婚約者様をとても大切にしているのが、伝わってきますよね」
少し照れたように微笑むと、彼女はカウンターへと戻っていった。
そういえば、店長さんや裏方のベーカーさんたちとは何度か顔を合わせているけれど、店頭で接客しているスタッフの方とは、まだちゃんと話したことがなかった。
そんなことを考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。
着信は雅さんから。
『もうすぐ終わるよ』
短いメッセージに、私もすぐ返信を送る。
『今、お店にいるよ』
ほどなくして、店内奥の事務所の扉が開いた。
「美愛ちゃん!」
愛する人の声が、真っ直ぐに私を呼ぶ。
彼は迷いなくこちらへ歩いてきて、
そのまま人前にもかかわらず、私をぎゅっと抱きしめた。
そして、私の頭にやわらかくキスを落とす。
「み、雅さん……っ。ここ、お店……、まだお客様が……」
小さな声で訴えたけれど、却下された。
カウンターの奥やテーブル席から、たくさんの視線を感じる。
恥ずかしさで頬が熱くなるけれど、雅さんの香りに包まれていると、不思議と心が落ち着いていく。
きっと、彼は知っているのだろう。私が今、どんなふうに感じているかを。
……、もしくは、まったく気づかないまま、ただ会えた嬉しさだけで動いているのかもしれない。
どちらにしても雅さんは、いつも通りの雅さんだった。
「会いたかったよ。実家のみんなは元気にしてる?」
「う、うん。みんな元気だよ。“開店おめでとう”って、伝えてくれたよ」
ようやく彼の腕が少しだけ緩んだ。
でも、その左手は私の腰に回されたまま。
これ以上は、ほんとに人目が気になるんだけど……。
そんなふうに内心ドキドキしていると、ちょうどカフェの外へ出てきた若い女性グループが、こちらを見てキャーッと歓声を上げた。
「きゃーっ! え、まさか……、本物!?」
「ヤバいヤバい、やっぱりあの2人だよね!」
えっ、なになに? どうして拍手してるの……?!
戸惑っている私の横で、雅さんは冷静にその場をおさめた。
グループの1人がスマホをこちらに向けた瞬間、彼はいつもの穏やかな笑顔で、けれどきっぱりと告げる。
「お客様、恐れ入ります。私たちの写真や動画の撮影はご遠慮いただいております。ご理解とご協力、ありがとうございます」
あ、出た。雅さんの“営業スマイル”。
これにやられない人、いるのかな……?
さすがというか、やっぱりというか。
グループの子たちもすぐに納得してスマホを下げてくれた。
「すみませーん! でも、お幸せそうで素敵です!」
「ありがとうございます。ご来店、ありがとうございました」
そう言って頭を下げる雅さんの姿は、どこまでもスマートだった。
私の婚約者って、ほんとにすごい人だ
なぁ……。
恥ずかしさと誇らしさで、胸がぽわんとあたたかくなっていく。



