その時、後ろのドアが開き、誰かが入ってきた。


「お前たち、やめないか!」

「あらあら、久しぶりに揃ったと思ったら、またケンカ? あなたたち、本当に仲良しね〜」


あれ、どこかで聞き覚えのある声だな?


「違う!」

『違う!』


雅さんと葵さんの声が重なり合って、さすが双子だ。あっ、感心している場合ではない。


立ち上がった彰人さんと悠士さんが、トレーに乗ったコーヒーとお皿を配っている。


うつむいていた私の目に、座った2人が映り、驚いた。


えっ、えー、うそ!
こんなことがあるの?


私と同様に、前の2人も呆然としている。


「えっ、もしかして父さんと母さんは、彼女と知り合いなの?」


雅さんは不思議そうに尋ねた。


「マスターとママさん?」

かろうじて声を出してみたが、まだ頭が追いついていない。ニット帽はかぶっていないが、確かに喫茶Bonのマスターといつもお話しするママさんだ。


「美愛ちゃんが雅の?」


そう尋ねるマスターに、私はうなずいた。


突然、ママさんが立ち上がり、雅さんの後ろに立つ。


「このバカ息子!」


ママさんはパシッと雅さんの頭を叩いた。


「あなただったのね、あの日、美愛ちゃんを泣かせたのは?」


ヒッ!32歳の雅さんが、今頭を叩かれたの?


ママさんが怒っているのは、1ヶ月ほど前に会社で起きた佐藤麻茉さんの嫌がらせの件。被害者である私が雅さんから詰問され、彼と一緒に住んでいるマンションに帰りづらくなり、立ち寄った喫茶Bonで泣いてしまった時のこと。


私がその件はもう解決したと伝えても、まだママさんとマスターに叱られている雅さんを見ると、心が苦しくなる。