ステージでの婚約発表が終わり、招待者たちはカフェBon Bonの味を楽しんでいるようだった。
私と雅さんは挨拶回りを終え、彼は副社長たちと話しに行き、私は受付のお手伝いへと向かった。
「お疲れ様です。私もお手伝いできますので、よろしくお願いします」
「あっ、美愛ちゃん! 挨拶は終わったの?」
総務の石田さんが、お土産の準備をしながら振り向いた。
「はい、終わりました。でも……、私、転けちゃって」
「まぁまぁ、それは緊張していたからよ。無事に終わってよかったわ。ねえ美愛ちゃん、くれぐれも“1人にはならないように”ね? 私、ちょっと化粧室行ってくるから、その間ここをお願いしてもいいかしら?」
石田さんが席を外し、私は他の社員の方々と準備を進めていた。そのときい遅れてひとりの若い男性が受付にやってきた。
赤茶色のやや長めの髪。黒のスキニーデニムに白いベルト、そして光沢のあるワインレッドのシャツ……、見るからに、このパーティーのドレスコードとは程遠い。
なにより、立ち居振る舞いがとにかくチャラい。派手な香水に加えて、少し距離があるのにアルコールの匂いまで漂ってくる。話し方も馴れ馴れしく、声がやたらと大きい。
「おっそくなっちゃった〜! カフェBon Bonのパーティーってここだろ? パパが遅れるって連絡してるはずなんだけどさー」
誰?
顔を見ても、名簿にあったどの取引先とも一致しない。確かこの時間帯に来る予定なのは、今後取引を検討している会社の社長一家だけのはず。……、でも、社長ご本人はもういらっしゃっている。
ということは、この人が“ご家族”?
その正体に戸惑っていたとき、彼は隣にいた総務の女性をチラリと見たあと、私に視線を向けてきた。
「……、へぇ、なかなか可愛い子、いるじゃん」
そして突然、右手首を掴まれた。
「ちょ、ちょっと……!」
言葉が出ない。驚きと恐怖で、呼吸が止まりそうになる。
「なぁ、こんなパーティーなんか抜け出して、俺と2人でどっか行かねぇ?」
にやついた顔、酒臭い息、強引な力。
『お客様、彼女の手を離してください』
「お客様、彼女の手を離してください」
総務のお姉さんと、警備を担当していた女性が間に入り、チャラ男の腕を押さえにかかる。
けれど私の腕を引けば引くほど、相手の力は強くなっていく。手首が痛い……、もう限界……
「おい、俺は招待されてここに来てるんだぜ? こんな扱いしていいと思ってんのか? おい、あんた、俺の言うこと聞かねぇと、この会社とは取引しねぇからな!」
受付テーブル越しに体を乗り出して、さらに私の腕を強引に引っ張ろうとしたその瞬間、
誰かの手が、彼の手をぐっと掴んだ。
「……、この手を、離してもらえますか?」
静かだけど、冷え切った声音。
「彼女が痛がっている」
その声が響いた次の瞬間、私の手首の痛みがふっと消えた。同時に、腰がきゅっと引き寄せられる。
ふわりと広がる甘くて優しい香りの中に、私は包まれていた。
……、雅さんだ。
彼は私の赤くなった手首を見て、表情を曇らせる。
そして、そっと手首にキスを落とした。
私と雅さんは挨拶回りを終え、彼は副社長たちと話しに行き、私は受付のお手伝いへと向かった。
「お疲れ様です。私もお手伝いできますので、よろしくお願いします」
「あっ、美愛ちゃん! 挨拶は終わったの?」
総務の石田さんが、お土産の準備をしながら振り向いた。
「はい、終わりました。でも……、私、転けちゃって」
「まぁまぁ、それは緊張していたからよ。無事に終わってよかったわ。ねえ美愛ちゃん、くれぐれも“1人にはならないように”ね? 私、ちょっと化粧室行ってくるから、その間ここをお願いしてもいいかしら?」
石田さんが席を外し、私は他の社員の方々と準備を進めていた。そのときい遅れてひとりの若い男性が受付にやってきた。
赤茶色のやや長めの髪。黒のスキニーデニムに白いベルト、そして光沢のあるワインレッドのシャツ……、見るからに、このパーティーのドレスコードとは程遠い。
なにより、立ち居振る舞いがとにかくチャラい。派手な香水に加えて、少し距離があるのにアルコールの匂いまで漂ってくる。話し方も馴れ馴れしく、声がやたらと大きい。
「おっそくなっちゃった〜! カフェBon Bonのパーティーってここだろ? パパが遅れるって連絡してるはずなんだけどさー」
誰?
顔を見ても、名簿にあったどの取引先とも一致しない。確かこの時間帯に来る予定なのは、今後取引を検討している会社の社長一家だけのはず。……、でも、社長ご本人はもういらっしゃっている。
ということは、この人が“ご家族”?
その正体に戸惑っていたとき、彼は隣にいた総務の女性をチラリと見たあと、私に視線を向けてきた。
「……、へぇ、なかなか可愛い子、いるじゃん」
そして突然、右手首を掴まれた。
「ちょ、ちょっと……!」
言葉が出ない。驚きと恐怖で、呼吸が止まりそうになる。
「なぁ、こんなパーティーなんか抜け出して、俺と2人でどっか行かねぇ?」
にやついた顔、酒臭い息、強引な力。
『お客様、彼女の手を離してください』
「お客様、彼女の手を離してください」
総務のお姉さんと、警備を担当していた女性が間に入り、チャラ男の腕を押さえにかかる。
けれど私の腕を引けば引くほど、相手の力は強くなっていく。手首が痛い……、もう限界……
「おい、俺は招待されてここに来てるんだぜ? こんな扱いしていいと思ってんのか? おい、あんた、俺の言うこと聞かねぇと、この会社とは取引しねぇからな!」
受付テーブル越しに体を乗り出して、さらに私の腕を強引に引っ張ろうとしたその瞬間、
誰かの手が、彼の手をぐっと掴んだ。
「……、この手を、離してもらえますか?」
静かだけど、冷え切った声音。
「彼女が痛がっている」
その声が響いた次の瞬間、私の手首の痛みがふっと消えた。同時に、腰がきゅっと引き寄せられる。
ふわりと広がる甘くて優しい香りの中に、私は包まれていた。
……、雅さんだ。
彼は私の赤くなった手首を見て、表情を曇らせる。
そして、そっと手首にキスを落とした。



